庭球 | ナノ


「父さん、ちょっと散歩してきていい?」

「ん・・・まあハルなら大丈夫だろ。
いってきていいぞ。夕方までに帰るんだぞ。
それと、オレンジ畑より先に行かないこと。」

「はい。いってきます。」


私は許可を得ると、愛用のラケットを持って一直線にオレンジ畑へと下っていった。
海に連接するここは、オレンジ畑に近づくにつれて潮風の匂いが濃くなっていった。
ここはテニプリの世界なのだ。そして私の今いるところは、アメリカ。
ならば、きっとここにはいるはずなんだ。

【テニスの強いヤツ】(リョーガとリョーマ)が。

映画どおりだとすればまだ、二人は一緒に住んでいたはず。
リョーガでさえ私と同い年だから年齢はまだ小学三年なのだけれど、それでも強いヤツと戦えるのを、この体が、心の芯から望んでいる。

そんなことを考えながら茂みを掻き分けていけば、鼻につんと来るオレンジの独特な香りが私を包む。
少しすれば、私の耳はボールの弾む音を捉えた。

「んっ!」

茂みを抜ければ、5メートルほど先のほうで帽子をかぶった少年がオレンジの木によじ登り、オレンジを取ろうとしていた。
そしてその足元には、たくさんのテニスボール。

それがこの世界の主役、越前リョーマだと気づいたときには他方から別の声がかかっていた。

「おーい、ちび助!」

この位置からでは丁度茂みに隠れた状態で目にすることは出来ないが、映画の展開からしてリョーガだろうと察しが着く。
ぱこん、という音が鳴り響き、彼の打ったボールは二つの茂みを突き破り、リョーマの採ろうとしたオレンジに直撃した。
ボールが当たった衝撃で枝から離れたオレンジは、リョーマの帽子を一緒に落としながら地へと落下していく。

「おおっとっと!・・・はっはーん、」

落ちてきたオレンジをすばやく拾ったリョーガは、自慢げにリョーマを見上げた。
それに反応してリョーマはすばやく木から降り、オレンジを奪おうとする。

「返せ!俺のオレンジ!!」

「お前の?
へっ・・・名前でも書いてあんのかよ。」

「あーーーーっ!」

そういいながらオレンジを皮ごと頬張るリョーガを見て、私はなんだかリョーマが気の毒に思えてきた。
オレンジに向かって襲い掛かってくるリョーマをいとも簡単によけるリョーガ。
私はポケットからテニスボールを出して、一度地面に付く。

「ふっ!」

「「!」」

強く放たれた打球は3つのオレンジをあて、一つはリョーマ、一つはリョーガ、一つは私がそれぞれキャッチした。

「少年、このオレンジでは、ダメか?
君の採ろうとしたものは見たとおりそこのヤツに食われてしまった。
代わりのオレンジならいくらでも採ってやるぞ。」

「・・・お姉さん、だれ。」

「へぇー、なかなか。
お前、俺とテニスしないか?」


予想外のお誘いに思わずおや、と発する。
私から誘おうと思っていたので、好都合だった。

「ふふ、喜んで。お相手願おう。」








正式なコートに行く訳でもなく、近くにあったネットが張られただけの芝生上でのコートで試合は始まった。


「which?」

そういいながらラケットを回そうとするリョーガ。
さすがは本場、日本人とは思えない英語のすべりだった。

「smooth.」

私のを聞くやラケットを回しだす。回転に寸分の狂いもなく、それに(中じゃ危ないということで)フェンスの奥で試合を見ているリョーマが感嘆の声を発する。
だが、リョーガのまわしたラケットは裏向きで芝生の上に落ちる。

「俺がサーブだな。
今なら手加減してやってもいいけど?」

「ふふ、お前は私に手加減して欲しいか?」

「くくくっ、愚問だったな。」

声を抑えておかしそうに笑うリョーガ。
コートにつけば私も心が弾み、周りの木々の擦れる音が耳に入らなくなった。






―――さあ、お遊戯の時間だ。




























「・・・ッ、はあ・・・っ、ハァ・・・」

「・・・は、・・・っく、ふふ・・・」

「く・・・、ふ、はははははは!!!
あーーーーっ、負けちまったよ!」

悔しい、そういいながらも笑っているリョーガを見て、さらに笑いがこみ上げてきた。
二人して芝生の上に転がり、空を見上げる。汗の尋常ではない量と日の傾き加減がこの試合の熱さを物語っていた。
ああ、楽しかった。この高揚感があるから、テニスは楽しい。
もし私の執着心がテニスではなく武道であったなら、私は戦闘狂、バーサーカーと化していたかもしれない。

「ふふふ、はは・・・!
・・・ふう。今日は楽しかった、ありがとう、少年。」

「はは、少年って言っても、俺と同い年だろ?
俺は越前リョーガ。名前、教えろよ。」

「お姉さん、おれ、えちぜんリョーマ!
テニス、すっごく強いねッ!!!」

その答えに私は体を起こすと、駆け寄ってきたリョーマにありがとう、といい、同じく体を起こしたリョーガに向かって話しかける。

「ふふ、次に私に会えたら、私から教えてやろう。」

「あ、ずりぃ。このアメリカじゃあなかなか会えねぇだろ。」

「大丈夫さ、君とリョーマとはまた会える予感がするんだ。
もしあえなかったら、そうだな・・・15になったら探してでも会いに行くよ。」

「「約束だぞ/よ!」」

「ふふふ、君たちは本当に良く似ているな。
ああ、分かった。約束だ。」




そうして、私は彼らとは別方向に走り出す。
夜の帳とおいかけっこをするかのように、全力で、全速で、意気揚々と。

本当は父さんの遊びに行った先が越前南次郎と同じ場所だということは知っていた。
名前を教えなかったのは、あくまで探されないため。
・・・いや、次に再開したときに【女の姿】かは限らないから、名前を知られないため、だな。


再開を楽しみにしているぞ、二人のサムライよ。










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4歳からいきなり小3ですみません。主ちゃんinアメリカ編でした!
海外での強敵、リョーガとどうしても絡ませたかったんです、すみません。
リョーマは中学に入れば会えるのですが、リョーガは会えるか分からないのでこの先どうしようかな、と思ったり。もし続けられるのなら新テニもかきたかったり。
そんなこんなでお次は紳士の国へ!感想超待ってます←