肌を焼きつかんばかりに照り注ぐ太陽と、夏の間だけの短くも長いその命を削りつくすように声を上げる油蝉。
―――夏だ。4年目の夏が来た。
赤みがかった髪の毛を長く伸ばした私は、麦藁帽子をかぶって一人、アイスを買いに外へと出た。
まだ4歳ということもありなかなか一人では外出できなかったが、日中家の中で過ごすということに対してのあまりの欲求不満に抜け出してしまった。
近くの駄菓子屋まで走り、後で起こられるだろう結末を頭の端に退け、肩たたきなどをしてせっせとためた200円で駄菓子を購入する。
まだ帰りたくないなと思い適当にそこいらを歩いていると、陽炎の先の2人の少年が視界を奪う。
どうやら同い年ぐらいのようで、近くまで来るとそこそこの大樹に停まっているカブトムシを捕ろうとしているのが見て取れた。
背丈の小さい、見覚えのある天然パーマの髪型をしているその子はもう一人の黒みがかった青の髪をした、背の高い少年に肩車をされながら必死に獲物を捕まえようとしていた。
「侑士!もっと右や右!
あーもう、あともーちょい左!行き過ぎやアホっ!」
「あかん、謙也の説明分かりづらくてかなわん。
ぼちぼちおろすでー!」
「まだや!!もうちっとふんばりぃ!」
「・・・おかんか自分。」
何事もなく横を通り過ぎようとしたらそんな会話が聞こえてきた。
ここがあの【テニスの王子様】の世界だと知り、もう3年が経つ。
いまだ蔵一家以外の登場人物に出会ったことのない私は、「ゆうし」と「けんや」の声に耳を澄ませる。「けんや」は黒髪だが、髪型は登場人物そのものだったのできっと本人だ。
こんなところで邂逅を果たすのなら蔵も呼んでくるべきだったかと考えた矢先、本格的に「ゆうし」が体制を崩し始めた。
「あかん、あと10秒でとりや!」
「アホ、もっと近づけゆうてんねん!」
「半分前へ、それから左に2つ、右斜め前に1つ。」
突然の声に驚いた「ゆうし」だったが、反射的に移動した。それを見かねて上に乗る「けんや」に声をかける。
「今だ、『けんや』くん。」
ぱし、と樹に編みの輪っか部分を使って叩けば、気づいたかのようにカブトムシは飛び上がろうとするも、それは網に引っかかって終わった。
「おおきに。自分、なんで俺らの名前しっとったん?」
「ああ、すまないな。二人の会話を盗み聞きしてしまった。」
「ええねん、カブトムシとれたしな!俺、忍足謙也!よろしゅうな」
「俺は忍足侑士。仲良うしてや。」
「ああ、ここであったのもなにかの縁だ。よろしくたのむ。」
「「”えん”?」」
言ってすぐ、この言葉は難しかったかと気づく。
そしてやっと確証を得ることの出来た「忍足侑士」に「忍足謙也」。謙也は昔は背が小さかったのかとひとり相槌を打つ。
その後、30分ぐらいだろうか、しばらく一緒に遊んでいた。
子供の頃はスピードスターといえどまだ私の方が足が速いので、これがまた面白い。
おそらくこの二人はまだテニスを始めていないのだろう。悔しがりながら仰向けに寝転がる二人を前に純粋に成長が楽しみだと思った。
「・・・おっと、そろそろ戻らないと。
すまない、親が捜しに来る頃なのでな。」
「あ・・・まちい!まだ名前、聞いてへん!」
「・・・ふ、次にあったときには、私から教えよう。
なに、同じ大阪に住んでいるんだ、また会えるさ。では。」
「おん、ほなまた。」
「おおきになー!」
手を振る忍足コンビを背に、家までの帰途につく。
少し歩いていれば、遠くから私の名前を大声で呼ぶ蔵の声が聞こえた。
そうだ、そういえば今日は練習に付き合ってやるのだったなと思い出し、蔵の元へと駆け寄る。
「ハル−−!」
「私はここだ。」
「ハル!どこにおったん?」
「いや、少しな。面白いヤツらにあったもので。」
「?へーぇ。
ハルがおもろいいうんやから、おもろいやつなんやな。」
「ああ。
お前もいずれ会えるさ。テニスも強いぞ?」
「ほんま?
ほな、たのしみにしとる。」
「そうしておけ。
さあ、今日はテニスをするのだろう?」
「せやせや!
はよ行こう!今日は負けへんでー!」
「ふふ、望むところだ。」
咽返るような夏の暑さに、陽炎が気まぐれで会わせてくれたようにも思える、まだ若きテニスの王子様。
心待ちにしているよ、またお前らと会えるのを。
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大阪に住んでいるのだから、一度は出して見たかった侑士。
蔵と謙也は昔、中一辺りまで小さかったらいいと思います。俺得です。
次回は海外へ!
8/30 一部編集しました。