庭球 | ナノ

「あーん」

「お、なんだハル。
テニスに興味があるのか?」

「んー!」

「よーしよし。でもなーハル。
お前はまだちっせぇから、できねぇんだよなー。」

そういって頭を掻き分ける父。

一歳になった。まだ頭が重くて立つのがやっとの状態で、赤ちゃんって大変なんだなーと思うこの頃。
子供の骨はまだ柔らかく、なにかの衝撃でもすぐに形を変えてしまうほどにもろい。
そしてまだおなかがすいたときや体に異変が起きたときでも、泣き叫ぶことでしか伝えられない。
私はあまり泣かないのだが、お母さんは逆にもっと手間がかかって欲しいようだ。
・・・まぁ、一歳児がまったく泣かないのもおかしいと思うので、程ほどに泣いてはいる。

「母さーん。ハルにテニスボールもたせてやっても問題ないよな?」

「んー、新品のだったら多分大丈夫じゃないかしら。とても口に入りきらないだろうし。」


「あーぅ!」

テニスボールを触らせてもらえた。懐かしい。

うちの父は結構有名なテニスプレイヤーのようで、テニスが間近にある生活だ。
ちなみに言うとお母さんはニュースキャスターだったり。
父さんは時々海外へ飛んでいたりするが、母さんは私が2歳になったら本業復帰するらしいのだ。

私はテニスボールを壁に投げつけては床に転がるボールを掴みなおし、投げつける・・・を繰り返す。
それを見かねた父さんは、お前テニスの才能あるんじゃねぇのかといい頭を撫でてくる。

「よーしハル!
じゃあ今度は父さんのとこ投げてきてくれ。」

「う!」

両手で持って下投げ。
少しずれてしまったが、うまくキャッチしてくれた。

「ハルがもう少し大きくなったら、父さんと一緒にテニスしような。」

「なー!」






――それから1年。





ピーンポーン・・・・・・

早朝。まだ3時に半ば寝ている状態で家の外に連れ出されてた。
母さんが隣の人の家のチャイムを鳴らせば、ぱたぱたと小走りをする足跡が聞こえた。
ドアが開けば、クリーム色のパーマ髪をした綺麗なお姉さんが出迎える。

「おはようございますー黒川さん。
まっとったよ。そっちがハルちゃん?」

「はい、娘のハルです。
ハル、この人が今日から面倒見てくれるからね。
夜になったら母さんも帰ってくるから、いい子にしてるんだよ?」

「んぅー。
・・・!やあーーーー!」

そういって私はそのクリーム色のお姉さんに今度はおんぶされ、
母さんがいなくなるとわかると自然と涙がこみ上げる。
こればっかりは子供なので制御の仕様がない。頭では分かっているのだが、小さい頃は本能で動いているから。

「あーらぁ。
黒川さん、ここは任して、はよしごといってらっしゃい。」

「ありがとうございます。いってくるね、ハル。」

「かあーー!」

部屋へ入ると、この家の匂いなんだろう、花のような香りがした。
んんー、フローラルぅ。なんて、何処かの部長さんみたいなことを思ってみる。

「おばさんなー、白石友里ゆうねん。
よろしゅう、ハルちゃん。」

「よろ、しゅー・・・?」

「せやで、よろしゅう。」

「よろしゅー、ゆりー!」

「おー、早速覚えてくれはったん?うれしいわぁ。
せやな、まだ朝早いし、もうすこし寝ぇへん?」

「ねぇへんー・・・。」

「ん、寝てもうたんか?ふふ、ごっつはやいわぁ。」








「ん・・・ふぁー。」

「ん、起きたん?ハルちゃん。
いい時間帯やなぁ。」

そういいながら笑うのは、先ほど自己紹介のあった・・・友里、さん。
時計を探して見て見ると、8時2分前かそのぐらいだった。

「明香里、テレビつけて。」

「はぁい。」

あかり、と呼ばれた女の子(推定4歳)は、リモコンを持ってきて眼の前でおす。
すると丁度8時のニュースが流れてきた。

「!!かあさん!」

そこに移っていたのは紛れもなく、自分のお母さんだった。

「ふふ、驚いた?
ハルちゃんのおかんな、今日から毎日テレビでるんやよー。」

「なーおっかさん、この人ハルちゃんのおっかさんなん?」

「せやでー明香里。
あ、ハルちゃん。このこがウチの娘、明香里や。
2つお姉さんなんやけど、よろしゅうな?」

「あかりーよろしゅー!」

「よろしゅーなーハルちゃん。
いっぱい遊ぼな。ほなこれ、お近づきの証。」

そういってもらったのは、飴玉いっこ。
さすが大阪、あめちゃんそうび!なんて思いながら明香里ちゃんをみた。
ブラウンのほわほわした髪型で、天然パーマがかかっていた。友里さんの遺伝だろうか?
眉根が下がっていて、雰囲気もほわほわしていた。天然だ、なんて思ったのが第一印象。

「それとなー、あともう一人紹介したい人がおんねん。」

「ほぉら蔵ノ介、いい加減でてきぃ!」

「んー!」

蔵ノ介・・・その単語に引っ掛かりを覚える。
白石・・・蔵ノ介?あっはっは、いやいやまさかねぇ?

「よ、よろしゅぅ・・・。」

新しい声は、語尾に向かってどんどん小さくなる
そうして友里さんの後ろからひょっこり顔を出したのは・・・クリーム色。

紛れもなく、テニスの王子様の登場人物白石蔵ノ介ご本人であった。






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長くなってしまった・・・!
というわけで、やっとだせました白石。
決してあの頃の王子様のコアラパジャマを着た白石を出したかったからというわけではない。決して。
そして関西弁、ここ変じゃないかって所は是非教えて欲しいです。