庭球 | ナノ

首もとのマフラーが白い息を覆う。
季節は空気を冷やし、見慣れた大阪の町はクリスマス特有の賑わいを見せていた。

周りを白銀にするかのように降り続く、白。



もう、7年がたった。
日々の忙しさで忘れていた。
・・・否。忘れようと、した。

あの時はどうすればよかった?
どうするべきだった?
答えを探すが、この手はただ空を掴むだけ。


――あの人は今、幸せでいられているだろうか。



中2の頃から、俺には彼女がいた。
そばにいるだけで、すごく安心できた。
常に他人を考え行動できる、自慢の彼女。

ずっとそばにいる、そう思っていた。

中3の冬、一年が終わろうとした頃。
ハルは俺の元から姿を消したのだ。

「蔵」と呼ばれる度に安心したあの声を、
家柄故の、一切の訛りの無い綺麗な標準語を、
名前を呼んだらうれしそうにはにかむ顔を、今でも鮮明に覚えている。




いつものように家路を二人で歩いていた。
ふとハルが足を止め、下を向く。

「蔵、あのね・・・」

「ん?」

「・・・・、別れよう・・・?」

その言葉に息を詰まらせる。
震える声で返す。

「・・・俺のこと、嫌になったん?」

「ッ、そういうわけじゃないの!!」

「なら・・」

「もう・・・蔵と一緒にいられないの。」

なにもいえなかった。
突きつけられる現実を理解するにはまだ難しくて。
強がって、「そばにいて」の一言もいえなくて。

するとハルは、無理やり貼り付けた笑顔でいった。

「いままでありがとう、さよなら。」


語尾を言い終わる前にあせるように後ろを向き、去ろうとする。
あわてて引き止めた瞬間に、こちらを振り向く。

「・・・っ!!」

俺の手が緩んだ瞬間に今度こそ走り去った。

・・・振り向いたときの涙で濡れた顔に、
その瞬間に感じた君の気持ちに、何も言うことができなかったんだ。
そして、君のぬくもりが雪のように解ける。

唯々、なにもできずに立ち尽くした。
ただ、ただ・・・・ただ・・・ただ。



―――次の日、ハルはいなくなった。

理由は東京の名門校への転校。
もともとお嬢様だ、あんな学校にいることがおかしかったんだ。
優しい奴だからきっと、最後の日まで何も言わずにいったんだろう。





気づけば体は冷たくなり、肩には雪が少し積もり白くなっていた。

ふと、空を見上げる。
張り付いた空気の中に、静かに降り続ける雪。


きっと今は、違う誰かを愛しているのだろうか?
又会えたら、やり直せるのだろうか?
俺をおいて歩き出している途中のほんの少しの間でも、
思い出してくれていたらそれでいい。

黒と白のセカイに小さくつぶやく。

「・・・愛してた。」


その言葉は夜の空にそっと、消えた。



Epilogue.

(いつまでも、愛してる。)(いまはもう、戻れないけど。)