庭球 | ナノ

06



いつもの朝。

変わらぬ日常。

朝の布団のぬくもりも、目覚ましの時間も、床の冷たさも。
世界は何一つ変わってはいない。


ただ・・・私の世界に仁王がいなくなっただけで。



「ハル、おはよ!」

「あ、・・・おはよう。」

「どうしたの?今日元気ないね。」

「大丈夫。ちょっと昨日の引きずってきちゃっただけだよ。」

「そう?無理しないでね。」


変わらない世界。

その中で

私のまわりだけが、色あせる。


失って初めて気づいたんだ。
私の世界の中心は、常に仁王だったんだ。

気づいたときに感じた胸の痛み。

もう、何もかもが遅すぎた。


苦しいよ・・・・雅君・・・。














俺は最近、一つだけ気になることがある。

誰にも本性を晒さないコート上の詐欺師、仁王雅治。

こいつは本当に喰えないヤツだ。
どんなことがあっても顔色一つ変えない。
正直、俺は相手にしたくないヤツという分類だ。

だけど、ここ8ヶ月同じクラスになって少しだけわかったことがある。

いくら詐欺師といえど、完璧な人間じゃない。
キャラ作っている可能性もあるけど、
遅刻常習犯で、何にも無関心で、笑うときは本当に笑う。
この前欠伸してたし、授業なんてほとんど空見てるか一点見つめてボーっとしてる。

最近同じクラスになった当初から、引っかかるところがあった。
やっぱそれは、確信がもてなくて有耶無耶になったけど、
昨日の騒動で俺の中の問いが核心を付いた・・・気がする。


”黒川ハル”。


クラスの人気者。
誰にも憎めない何かを持ってる。
そんで多分、仁王にとって一番大切なヤツ。

黒川に対する仁王の見る目は他と違う。
なんっつーか・・・ただのクラスメイトじゃねぇ。
ふと見ただけじゃわかんねぇけど・・・雰囲気で黒川のこと、大切にしてんのがわかった。

それで・・・昨日の事件。
仁王があんな声張り上げてんのも、
あんな怒ってんのも、
あんな・・・焦ってんのも初めて見た。


でも

昨日の放課後、
部活に来たときはもっと酷い表情(かお)してた。
全部を諦めたような・・・そんな感じだ。
自暴自棄・・・ってのか?

実際問題、俺はまったく関係ないんだが・・・・・気になった。



「にーぃちゃん!
早くしないと遅れちゃうよ!!」

「お、おお!わりっ

いってきますッ!」