05
つまらない。
自分の一日の中で楽しい時間なんか、テニスをしている間と朝の時間だけだ。
・・・・こんなところでも結局、自分の中心はハルなのか。
自分の内情にため息を付きつつ、バスケットボールを底に突く。
味方から回ったパスを受け取り、すばやくゴール下へ回りレイアップシュート。
入れた瞬間は何も感じなかった。
隣のコートでは3P地点からのシュートを入れたらしいハルが囲まれている。
たった10メートル弱のこの距離が、とても遠く感じられた。
今この時でさえ、ハルのことを想っている自分に嫌気が差す。
それは重く、冷たく、ズンと心に落ち、自我を消す。
その後に残るのは唯果てしない程の虚無。
そうだ。
余計な感情を持ち出すな。
俺とあいつは唯の他人だ。
そう思っていたとき、男子女子ともにある一点を中心にざわめきが起こる。
ふとその元凶に目を移せば、目に映るのはハルが重力に従い指が離された操り人形のように床へと前に倒れるところだった。
その光景を目にした瞬間、さっきまで沈めたはずの感情がよりいっそう熱く燃え上がる。
「ハル!?大丈夫、ハル!!」
「男子、誰か保健室まで運んで!」
「あ、俺が行く!」
その言葉を聞けば、燃え上がった炎が冷たく体を駆け巡る。
「そいつに、触れるんじゃなか!」
しぃ・・・ん――
辺りを静寂が支配する。
そんなことお構いなしに仁王はすばやく騒ぎの中心へとむかう。
静かに歩いてくるその人に道を開ける様に大衆は後ろに下がる。
倒れたハルの元まで来ると、仰向けに寝かせて背中と膝の下に手を回し横抱きにする。
そのまま立ち上がり、誰も一言も口を開かぬまま仁王は体育館を後にした。
「熱中症と多少の空腹、それに、ストレスによるものだと思うわ。
仁王君、黒川さんの彼氏か何か?
彼女のストレスの原因について思い当たる節はないかしら」
「・・・・・。」
「・・・、ま、いいわ。
先生出張が入っていたのよ。保健室は任せたわよ。」
音を立ててドアと底が擦れあう。あたりは静まり返り、
保健室独特の白い壁と薬のにおいが、先程までの仁王を落ち着かせる。
もし、"ストレス"の原因が自分なのだとしたら・・・。
そういう答えに行きついた。
「ま…さ、君――。」
心臓が大きく鼓動する。
夢のなかで名前を呼ばれただけなのに、
たったそれだけのことでもこんなにも嬉しくなる。
覚悟を決めねばならない。
この、あいまいな関係を完全に断ち切るのだ。
「・・・ハル、――ごめん。」
触れるだけのキスを額に。
少しして、ゆっくりと瞼を上げる彼女。
「んっ……仁王君?
あれ、私…」
「軽い熱中症じゃ。
お前さん、今日ちゃんと水分はとったかのぅ?」
「そ、そういえば……」
眉が下がる。
そして、申し訳なさそうにこちらに目を向けた。
「ごめんね、運んでくれたんだよね?
あと、ありがとう」
「別に、頼まれたから運んだだけじゃ。」
「、ふふ、そういうとこ、昔と変わらないね」
「………。」
「これからは、朝も来んでいいぜよ。
これ以上俺をふり回すんじゃなか。」
「!
…分かっ、た。
今まで迷惑だったよね、ごめんね。」
この時、二人の関係はもう絡まることはないと、漠然と思った。
何かが、
割れた音がした。