二周年記念小説 | ナノ

冬に咲くひまわり side:R







冬に咲くひまわりを見つけた。







暖かい日本で迎える、二度目の冬が来た。

上司の間で、国同士をひとつの社会に入れて共和を図ろうという試みが出たそうだ。
もちろんまだまだ大変な国もあるから強制ではないけど、僕の上司はそれに乗ったそうだ。
上司の命令で各国の動きを探ってこいって言われて。

留学生という名目で日本に高校生のフリをして3年間を過ごすらしい。
寮制のマンモス校。確かに、これなら人の中に国が混じっていてもわからないよね。
見た目年齢的にも、フランス君はちょっときつそうだけど…まあ他は5歳ぐらいだしごまかせそうだ。

不安材料はいっぱいある中、こうして僕は、不参加の姉さんとベラルーシの反対を押し切って、遠い日本まで来た。
ロシアとして。
名目上は、イヴァン・ブランキスキという名の少年としての学園生活は、2年目の冬に突入していた。




僕は日本の文化の発達加減にすごく感謝して、毎日そこまで寒くもないのにカイロを入れて冬空の下を歩く。
ウォトカよりずっと小さいから、ポッケに入れやすいや。本当日本君ちの発明はすごいなぁ。
これ故郷に持って帰ったらみんなに大喜びされるよきっと。手に馴染んだカイロの感触に、僕は独り浸っていた。

「……今年の冬は、暖かいなぁ。」

僕は上司の都合上寮ではなく学校の近くのアパートに滞在している。
一人で暮らすのには大きすぎる部屋を用意されて、広い空間で流れるつまらないテレビの映像を見る生活にも飽きて来たところだ。

放課後、学校の帰り道。
コンビニエンスストアで暖かい風にあたり、ホットココアを購入。(学生設定だからお酒が買えないのが残念。)
少し遠回りして近くの公園を通ると、公園のベンチのところに見知った制服を見かけた。
うちの学園の高等部の制服だ。ネクタイの色からして、1年生。

何をしているんだろうと足を止めると、何やら自分のマフラーを首から解き始めた。
ロシアの寒さに慣れた僕ならこのぐらいの気温、寝巻き一つで過ごせるくらいだけど、夏に40度まで上がる日本育ちの女の子には今日という日はマフラーなしでは過ごせないんじゃないかな。
僕は何をするでもなく遠くで北風の往来にブルリと震える女の子を眺めていた。
その子は、自分の赤いマフラーを今度は近くにあった雪だるまに巻いていった。

「……わけわかんない。」

雪だるまといっても、小さな子供が作ったほんの些細なもの。僕の膝上ぐらいしかない程だ。
目は片目しかついてないし、両手はそこらへんに落ちている木の枝を使ったような粗末な代物。

その子はしゃがんで綺麗に巻きつけると、ブルブル震えながらも自分のカバンの中を漁った。
そして何かをしばらく迷ったあと、自分の財布から茶色い円盤を取り出し、雪だるまの顔に埋め込む。

なにをしているのかはわかった。
だけど、僕には到底理解できない行為だ。

けど…。


僕はその雪だるまを知っていた。

一昨日この道を通った時には、赤いバケツを被って、黒いボタンが目の位置に二つついていた。
両腕である木の枝には小さな白いマフラーが二つついていたし、形ももっと綺麗だった。僕はすぐにいつもここで遊んでいる小さな女の子と、そのお兄さんの作ったものだと予想ができた。

…昨日この道を通った時には、雪だるまの赤いバケツも、マフラーも、ボタンも、すべて剥ぎ取られていた。おそらく放浪していた不良やらホームレスやら、酔っぱらいのサラリーマンやらの仕業だろう。
綺麗に整った雪だるまは見る影もなくボコボコになっていて、かろうじて形がわかるぐらいだったのだ。

今朝、ここを通った時。
ボコボコの雪だるまは、少しだけ形を取り戻していた。
昨夜の大雪警報の後、早朝の登校時間に一往復分だけあった公園に入った足跡。
誰かが直したんだろうとは思っていたけど、この時僕は確信をもってその女生徒だと思った。


遠くからでもわかるほど真っ赤になった手先。
きっとうまく動かせなくなっているのだろう、財布から10円を出すのに随分時間がかかっていた。

僕は彼女のその無駄な努力のワケがわからなくて、不快になった。
彼女もここの道をよく通っていて、子供の作った雪だるまだと知っていたとしても…。
僕ならわざわざ手がかじかむまで直して、寒いのに自分のマフラーまでつけて、自分の10円を犠牲にするような真似は到底できない。
だから不快だった。


それと同時に、昨日までのぐちゃぐちゃな雪だるまをどこか自分に重ねていたこともあって、不思議と心の中が満たされていく感覚を覚えた。


その雪だるまと一緒に、僕も救われた気がした。

変な話だ。僕は今更人間に救いなんて求めていないのに。


だけど…



雪の中で必死に優しい手を伸ばすその女生徒をみて、僕は確かにこう思ったんだ。






ああ、冬に咲くひまわりだ。





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