二周年記念小説 | ナノ

冬に咲くひまわり5


その日の放課後、私は昼まですっかり忘れていた日直の仕事と掃除当番を終えて数人程度しか残っていない教室に帰ってきた。
そこにはもうとっくに帰ったはずのミキの姿があって、私を待ってくれていたことが伺える。

「日直お疲れ〜。」

「ありがとー、
またせちゃったね、帰ろうか?」

「おぅ。」

何も聞かずに隣を歩いてくれるミキの優しさに、知らぬうちにポタポタと涙がこぼれ落ちた。
会話を途中でとぎらせてしまった私を非難するでもなく彼女は静かに隣で抱きしめて背中をさすってくれる。

「ぅうー…。」

「よしよし。怖かったね。」

怖かったけど、私は

「……ブラン、キスキ先輩、と、もっと…一緒にいたかったぁ……っ!」

自分の言葉でそう伝えた瞬間、もう昨日までの日々には戻れないのだと自覚してしまった。
私はいつの間にかにあの人と過ごすお昼を気に入っていたのだと思う。

「うん。そっか。
じゃあ、自分の思ってること全部言ってきな?
怖くても、嫌われるのが嫌でも、言ってきな。」

一人がダメなら私も行くから、とさすっていた背中を軽く叩かれる。

「あり、がとうっ!!
ありがどう゛ミ゛ギーー!!!!」

一人で行ってくると行った私の背中を、今度は押してくれた彼女を、私は一生大切にしなければと切に思った。










まだ校舎に残っているだろうかと広い校内を探し回り、私はそこで一人で佇むブランキスキ先輩を見かけた。
そこは、随分前に廃部になった園芸部の使用していた花壇。
今年の春で卒業してしまった園芸部員の跡を継ぐ後輩も見当たらず、今では草も生え放題で手入れも施されていない、前とは見違える程廃れてしまった。

彼は私に気がついたのだろう。
数歩分離れた距離まで近寄ると、いよいよ一つ横目に視線をよこしてきた。しかし直ぐに花壇に目をやる先輩を見て、口を開いた。

「……初めて、ブランキスキ先輩を見かけたのは、先輩がそうして園芸部の花壇を眺めていたのを二階から見つけたときでした。」

今は同じ高さでその花壇を見る。

「当時は二月で、雪解けもまだ当分先な程寒くて……。
花壇には、霜柱の出来た黒い土と踏まれてない雪しか無かった。」

何も言わない先輩にまた一歩近づいて、また口を開く。
どこかでぴちゃん、と、水の跳ねる音が聞こえた。

「その時の先輩は、なんの植物もない花壇で、何を見ていたんですか。」

「静かに佇むその後ろ姿が哀しそうで、でもとても綺麗で……思ったんです。」

また一歩。また一歩と先輩に歩み寄る。
気がつけばもう三人用のベンチの幅しか無かった。
次の言葉を紡いだとき、恐怖も、悲しさも、苦しさも、何一つ存在しなかった。





「冬に咲くひまわりみたいだなって。」







その言葉に少しだけ目を見開く先輩。自然と視線が絡み合うけど、やっぱり、あの頃と同じ感想を抱いた。

「僕も」

耳に届いたのは人を安心させるような、私の知っている先輩の声だった。

「僕も、初めて君を見た時に思ったんだ。」

「いつだったか、誰かの作った不格好な雪だるまにマフラーを巻いてあげてたよね。」

確か、そんなことがあった気がする。
作りかけの、目がひとつだけ取れた雪だるま。私はそのこに赤いマフラーを巻いてあげたんだ。
そのマフラーは何故か、春になって自分の机の中に入っていた。

「その姿が、雪の中で暖かくて、眩しくて……。」


先輩は、私に体を向けて、照れくさそうに微笑んだ。






「冬に咲くひまわりみたいだなって。」









ああ、もう、こんなに近くで咲いていた。


私の見つけたひまわりは、儚くて、とても哀しそうで。






でも必死に太陽に手を伸ばすその姿は、とても美しかった。








言うなれば、そう。










冬に咲くひまわり









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初めて彼を見たとき、私は国花も相まって、勝手にそんな印象を受けました。
キャラソンのズィマーを聞いたとき、ペチカを聞いたとき。
そして本家キタユメの「ロシア歴史が怖すぎる件について」を読んだとき、コルコルの意味を調べたとき。
ロシアさんの持つ闇の深さと、大国になっても見られる未成熟さに彼を幸せにしてやりたいという気持ちが芽生えました。
今回は学ヘタでしたが、国設定でやると自分で切なくなったので(笑)これからもせめて人として、主人公と生涯を共に過ごせたら幸せだと思います。
ここまでお読みいただきありがとうございました!
短いですか別視点のお話も二つ用意しようと思います。

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