二周年記念小説 | ナノ

冬に咲くひまわり4


所変わって再び参上した特進科3年の教室エリア。
昨日と同じように深呼吸をして教室を覗き込むが、どうやらブランキスキ先輩は不在のようだった。
私は昨日アルフレッド君が行っていた場所にも足を向けた。


指定された場所は体育倉庫裏だけど…なんでこんな所にいるんだろう?
半信半疑で足を向けるが、予想とは裏腹にそこには数人の話し声が聞こえた。
こそこそと覗いてみると、信じられない光景が飛び込んできた。

「……てないの、知ってるよね?」

聞き覚えのあるブランキスキ先輩の声。
床に寝転がる小柄な男の子と、その子を起こそうとする男子生徒を見下すように立っているブランキスキ先輩の後ろ姿。
いつものようにマフラーはつけていなかったけど、あの身長と綺麗な髪の毛はきっとそうだ。
手には、つい数日前に目にした蛇口が握られていた。

「で、でも…!!」

「や、やめてくださいイヴァンさん!」

「……君まで僕に反抗するつもり?
仲良くなれない子は……いらないよ。」

高く振り上げた蛇口。その瞳はどこまでも冷えていて、私は恐怖で今にも足がすくみそうだった。
今までに聞いたことのないような低い声のブランキスキ先輩。知らない人みたいだった。
でも、あんなもの頭に当たったら……とめなきゃ!!
私は高く振り上げた右腕に届かないと判断して、その巨体ごと押し倒すつもりで突進した。

どん、という音と共にブランキスキ先輩と倒れる予定が、先輩は予想外の後ろからの攻撃に踏みとどまった。


「えっ……君、どうしてここに…。」

「やめてください…先輩!!!」


「………はなして。」

一瞬だけいつもの先輩に戻ったと思ったが、すぐに先ほどのような低い声で私を突き放す。
底冷えするような恐怖で、私の心臓は竦み上がってしまった。
でも、ここで離れちゃけないと、漠然と思った。

「愛惠ちゃん。放して。」

「だ、だめです…だめなんです、その人たちを殴っちゃ…!!」

「………。」

怖くて顔を上げられない。
必死にしがみついたブランキスキ先輩の体温だけを頼りに、なんとか踏みとどまっていた。
ああ、今にも心臓が破裂しそうだ。

すると、静かに下げられたブランキスキ先輩の右腕。

「……もう行っていいよ。早く消えてくれないかな。」

しばらくして二人の足音が遠ざかったあと、私は腕を開放して震える足で数歩下がった。
顔を上げると、どこまでも冷徹な表情の先輩とかち合った。

「……ぁ…っ……。」

「なんで僕の邪魔をするのか、聞かせてもらえるかな?」

「………ごめ…な……さ」

「君の考えてることがわからない。
僕の邪魔をするなら、いらないよ。君も。」

いらないよ。

突き放したような言葉が、つららとなって私の上に落ちてくる。
もう私の知っているブランキスキ先輩は、ここにはいないんだ。

「恋人ごっこももう終わり。
明日からお弁当作ってこなくていいから。さよなら。」




私の中の何かが、潰れていく音が聞こえた気がした。













*


「それで…イヴァン先輩とは縁が切れたんだね。」

「うん…。」

次の日。私はすぐにミキに昨日のことを相談した。
お弁当を作る気にもなれず、今日のお昼は通学途中のコンビニで買ったおにぎりだけだった。

渡しそびれた先輩のブレザーとマフラーは、机の横に駆けた紙袋の中で大きくその存在を主張していた。

「高梨ー、なんか特進科のやつが来てるよ。」

「えっ…!」

その言葉に教室の扉に目を向けると、見覚えのあるアホ毛と金髪が見えた。
私はミキにちょっと言ってくるねと席を立つと、ドア付近まで歩いて行った。

「やあ愛惠。
君に会いたいって人がいたから連れてきたんだぞ。」

そう言ってアルフレッド君は少し右にずれると、後ろに同じようにメガネを掛けた男子生徒が顔を出した。

「こんにちは。ブランキスキ先輩のお使いで来た者です。
これ、預かってきました。」

「あ…私のお弁当箱…。」

受け取ると、ちゃんと洗ってあった。

「それと…昨日のこと、お聞きしました。
友人を助けてくださってありがとうございました。」

口ぶりからして、おそらく昨日先輩に殴られそうになっていた二人だろう。
私もいえいえと頭を下げる。そして一度自分の席に戻って、先輩の服が入った紙袋を持ってもう一度ドアのところにきた。

「あ、これ…渡しそびれちゃって。
よかったら返してきてもらえますか?
……私の顔なんか、見たくないと思うから…。」

「……分かりました。私が責任をもって届けましょう。
では。失礼します。」

そう言って去っていった男子生徒。
髪の毛の色や顔からして彼も留学生なんだろう。後ろ姿を見送っていると、隣のアルフレッド君が耳打ちをしてきた。

「なあ、君この間の先輩とはあったのかい?
今日たまたま会って君の話をしたら不機嫌な顔がもっと不機嫌になったんだぞ。」

「あはは…ごめん。怒られちゃったんだ。」

「……何があったかしらないけど、困ったときは俺を呼んでくれよ!
なんたって俺は、ヒーローだからな!!」



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