二周年記念小説 | ナノ

冬に咲くひまわり2



次の日。

いつもよりほんの少しだけ早く起きてブランキスキ先輩用のお弁当を選んで、いつもより一人分多くおかずを作る。
お弁当箱や包みを選ぶのにもすごく時間がかかったし、おかずの配置や栄養にも気を使った。
その為いつもより遅く家を出てしまい、走って教室まで向う。

ガラッ


「ギリギリ……間に、あっ…」

確かにHRには間に合った。むしろ数分余裕についたぐらいだ。
しかし何故かクラスの私への視線が妙に感じた。
その中で、私より遅く教室に入ったミキが一番初めに私に声を掛けてきた。

「おはよう愛惠。
珍しく今日は遅いね?」

良かった、私はぶられたのかと思った……!

「お、おはよう!
お弁当二人分作ってたら遅くなっちゃって…。」

「「「二人分!?」」」

「えっ!?」

ミキに話しかけていたはずなのに、クラスメイトの女子から返事が返ってきた。
その子達はズンズン私に迫って来て、耳元で密かに聞いてきた。



「あ、あの…ずっと聞きたかったんだけど、高梨さんって特進科3年のイヴァン先輩に告られたって本当?」

「なななななななな…!!」

なんでそんなことが広がってるの…!!
ミキに助けを求めるように視線を向けると、諸々の事情を説明してくれた。

「半ば強制的に恋人にされたみたい。
この子被害者だから、あんまり陰湿なことしないでって他に回してくれる?」

「あ、うん!わかった…!」

ミキのことが少しだけ怖いのか、チャイムが鳴るやいなやそそくさと自分の席に戻っていった。
それにしても…噂ってそんなに早く広がるんだ…。

「これからどーしよー…。」

「…………。」








「や。こんにちは愛惠ちゃん。」

「こ、こんにちはブランキスキ先輩…!」

「じゃあ行こうか。」

「あ、はい…。」

沢山の目をかいくぐって、私はちょっと寂しげに手を振るミキを尻目に先輩の後ろに付いた。

屋上は、昨日よりまた少しだけ風が冷たい。
11月の野外はそこまで過ごしづらくはないけど、風がほどよく通る屋上は地上より気温が低いのかもしれない。
昨日と同じように屋上のベンチに腰掛けて、二つ持ってきたお弁当の一つを渡す。

「本当に作ってきてくれたの?ありがとう。」

「はい…その、味の保証はそれなりに…。」

「大丈夫、これでまずかったら君がちょっとかわいそうなことになるだけだから。」

「ちょっと……!?!!」

コルコルコルコル言っているのはなぜだろうか。
にこにこ笑っているブランキスキ先輩。すごく怖い。絶対生きて帰れない!
私は食い入るように先輩がお弁当に口を運ぶのを見ていた。
お箸を使うのがなれないのか、フォークでハンバーグをグッサリ刺すと、それを口に運ぶ。
口に…入れ………

「……。」

「……。あの」

「え?は、はい!!」

「そんなに見つめられると、食べづらいかなぁ。」

「…ご、ごめんなさい!!!」

や、やってしまったー!
ううん、といってあっさりと口に入れたブランキスキ先輩は、おいしーといって二口目の料理をフォークで刺す。刺す。
と、とりあえずはよかった…ほっとしながら自分のお弁当箱を開く。

「………!?」

「ん?どうしたの?」

二段弁当の二段目、すなわち下段を恐る恐る開く…。
そこには、私が予感していた悪いことが待ち受けていた。

「先輩……ごめんなさい!」

「え?なに、どうしたのさ。」

「そのお弁当箱、二段分おかず入ってて…。」

それを聞いた先輩も下段を開けると、あった。私の分のおかず。
私のお弁当には今、ご飯が二段分敷き詰められていることになる。

「わ〜、これは僕としては嬉しいけど、君は辛いよね。」

ご飯だけ二倍って…辛いです。すごく。ふりかけ持って来れば良かった。

「ど、どうしよう…。」

「じゃあ、僕がそのお弁当半分もらってあげるよ。」

「あ、ありがとうございます…!」

優しい!







「………いや。いやいやいや。」

「え?」

「だってそれ、つまりあんたご飯一人分しか食べてないんだよね?
先輩から半分おかずもらったらいい話になるけどそれあんたが一方的にお腹減るだけじゃん。」

「あ…そっか……だからいつもより足りない気がしてたんだ!!」

きがつくとお腹がすいてくる。

「あんたはほんとに……はあー…。」








その日の放課後。
私は回収し忘れていたお弁当箱を回収すべく特進科の3年生の教室に行っていた。
さすがにこれもミキについて言ってもらうわけにはいかない。

別世界に来たような錯覚を振り払うように、私は壁を触りながら移動していた。
特進科の、しかも3年生の教室なんて生涯入ることのない領域だと思っていた。

「そういえば…ブランキスキ先輩のクラスすら知らない…!!」

そしてもう帰っているのかもわからない…!!

「ん?やあ!愛惠じゃないか!!
こんなところで何してるんだい!?」

「わああああああああ!!!!?」

びっくりして大声を上げてしまった。
後ろを振り返ると、見覚えのあるアホ毛が映った。

「あ、あるふれっど君…?」

「そうさ!ところで君、迷子かい?ここは特進科の3年生のクラスしかないんだぞ?」

知り合いに会えてよかった!!

「そ、そうだアルフレッド君!
私人を探していたの!特進科3年のイヴァン・ブランキスキ先輩ってどこにいるか知ってる?」

藁にもすがる気持ちでそう聞くと、先ほどとは打って変わって神妙な顔をしだすアルフレッド君。
すこし言いづらそうに視線を彷徨わせると、ため息をひとつついてこちらを見直した。

「えーっと、本当にその人に用なのかい?
知ってるけど…案内したくないんだぞ………。」

「?」

「ごめんよ、案内はしないけど教室の場所は教えるよ。
会えると…いいね。気をつけて。」

踊り場の案内板までついてきて、親切にブランキスキ先輩の教室といそうな場所まで教えてくれたアルフレッド君。
妙な言葉に首をひねりながら、その後ろ姿に感謝して私も歩き出した。


「ここか……。」

深呼吸をして教室に入ろうとしたその時、思わぬ言葉が飛び込んできて私の足を止めた。

「イヴァン〜、お前この前後輩に告白したんだって?
なんでまたそんなこと…。」

立ち聞きは良くないと思ったけど、その内容が私のことだったので思わず耳を欹ててしまった。

「うるさいなぁ。僕が誰と何しようと君には関係ないでしょ。」

「そりゃそうなんだけどさ…俺はその子のことを思って言ってんの。
危険な目にあわなきゃいいけどな…。」

「……それこそ、君には関係のない話だよ。
僕もう行くから。До свидания.」

私は、音を立てずにそこから離れる。
なるべく遠く、私が走れる一番速い速度で駆けた。






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До свидания【ダ スヴィダーニヤ:さようなら】

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