冬に咲くひまわり side:R 5
僕は寄り道もせずに家に帰って、すっかり暗くなった部屋で電気もつけずに玄関に佇んでいた。
なんでだろう、自分でしたことなのに。
「なんでこんなに、寒いのかな…。」
……寒いや。
*
それから僕は、先週と変わらない僕の日常へ戻っていった。
さすがにお弁当箱は洗って、エストニアに託して届けてもらった。
いつもと何も変わらない。
休み時間のうるさい教室。
暑いぐらいの室内。
大した用もないのに話しかけてくる生徒。
何も変わらない。
変わったのは、僕の心情だけだ。
ああ、一人になりたい。
帰りのHRをサボって、僕は静かな場所を探しに行った。
絶対に誰も来ない、静かな場所へ行きたい。
上履きのまま学園の敷地内を歩いて歩いて、見つけた。
廃部した園芸部の植物園。今は雑草まみれで、花壇は踏み荒らされていた。
でもここなら誰も来ない。
僕はただ目の前の花壇を見つめて、考えることを止めた。
そうしてどれほどがたっただろうか。
落ち葉を踏む足音だけが僕の耳に届いて目を開く。
それは徐々にこっちに近づいてきて、視線を送ると案の定愛惠ちゃんだった。
なんで突き放したのに、君は遠くなるどころか近づいて来るの?
僕の思考もよそに、彼女はひとりでに口を開いた。
その瞳に、恐怖の色は見えない。
「……初めて、ブランキスキ先輩を見かけたのは、先輩がそうして園芸部の花壇を眺めていたのを二階から見つけたときでした。」
「……。」
「当時は二月で、雪解けもまだ当分先な程寒くて……。
花壇には、霜柱の出来た黒い土と踏まれてない雪しか無かった。」
「その時の先輩は、なんの植物もない花壇で、何を見ていたんですか。」
……あの時の僕は、冬の花壇で
「静かに佇むその後ろ姿が哀しそうで、でもとても綺麗で……思ったんです。」
君の影を追っていたんだよ。
「冬に咲くひまわりみたいだなって。」
そう言おうとした口は、君の言葉がいとも簡単にさらっていった。
ああ、わかったよ。
あの時僕は、君に恋をしたんだ。
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ここまでお読みいただいてありがとうございます。
結局国設定にしたい感情を抑えきれずこんな結末になってしまいましたが、この先ふたりが歩む道は少なからず辛い道のりです。
人と国の時差。このお話ではそんな言い回しをしましたが、いつかこれをテーマにお話をかけたいと思っています。
これからこの少女と一緒に歩んで行く年月は、ロシアさんにとっては愛しくなるほど別れが辛くなる思い出になります。
それでも一緒にいてよかったと思えるようになって欲しいですね。(むしろそこを誰か書いて)
ロシアさんの隣には、誰かがいて欲しい。そんな衝動的なもので書き上げた小説でした。書ききれて良かった。
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