二周年記念小説 | ナノ

冬に咲くひまわり side:R 4


次の日の昼、僕は昨日と少しだけ違った心境で普通科へ赴いた。
愛惠ちゃんは僕をみて急いでお弁当をもってく待ってくるけど、なんだかその目は疲れたように時折下がる。
寝て、ないのかな。

ベンチに座って、持ってきたお弁当箱を返した。
実は洗剤の使い方がわからなかったからリトアニアに聞いたんだけど、洗い方が間違ってないか不安だ。
愛惠ちゃんはそれを受け取って、僕に少し慣れたのかぎこちなく微笑む。

「あ!ごめんなさい、昨日回収するの忘れちゃって…。」

「いいよ、僕のために作ってきてくれてるんだから、それで十分。これぐらいさせてよ。」

僕の言葉に無反応になった愛惠ちゃん。
ぼーっとしたまま顔を見つめられたので、少しだけたじろぐ。

「愛惠ちゃん?」

「……あっ!ごめんなさい、なんでしたっけ?」

「大丈夫、昨日寝てないの?
寝れる時にちゃんと寝ないと、死んじゃうよ。ここは日本だからそうそう死なないかもしれないけど…。」

今は昔ほどひどくはないけど、必ずしも臨死体験をしないとも限らない。
愛惠ちゃんは僕の忠告に少しだけ目が覚めたのか、今度は質問を投げかけてきた。

「先輩の故郷は、どんなところですか?」

……――。
お弁当を開ける手を止めて、曇り空を見上げたる。
ロシアの上空は、今日みたいに毎日真っ白だ。

「僕の故郷か……とても、寒いところだよ。」

自分が大国になって、地位も高くなって、たくさん頑張った。
けど頑張った分だけ、上も下もばらばらで…社会主義国家を目指してから上の横暴さには頭が痛かったけど。
それでも大国になってやっとお友達が出来るかなって思ってたのに…。

「とてもとても寒くて、凍えそうなところだ。」

-ロシアのせいで俺の国はめちゃくちゃだ!-
-ロシアさんの下で働くようになってから、財政が下向きなんだよね…。-
-ロシアのせいで-
-お前のせいだ-

思考を断ち切るように、僕は目を伏せた。

「僕は、昔孤児で、親代わりの人にいろいろこき使れたんだ。
それでやっとの思いで一人前になれたと思っても、皆がばらばらで…。」

おかしいよね、人間も国も、自分の立場が悪くなると全部僕のせいにした。
僕はただ仲良くなりたかっただけなのに、歩み寄るほどみんなは離れていくんだ。
僕は、僕は唯…

「……よし、よし…。」

「!」

優しく触れられた愛惠ちゃんの手に、何が起きているのか分からずにされるがままになっていた。

「よく、頑張ったね…。きっと、あなたの努力が、報われる…時、が……」

優しい顔で微笑む彼女に、僕はあの時と同じ安心感を覚えた。

ああ、そうだ。この笑顔だ。
この子は、僕の欲しい言葉を、優しさを、こんなにも簡単に差し出してくれる。
僕はそれに返す言葉を知らなくて、されるがままになっていた。

撫でる手が止まったと思ったら、彼女の瞳も完全に夢へと沈んだ。
ずるりと体が傾くのを抑えて、しばらくこの状況をどうしようか悩む。

取りあえず彼女の膝にあるお弁当をしまって、彼女はベンチに寝かせる。
昨日は本当に寝ていなかったのか、ピクリとも動かないまぶたに起こすのもためらわれた。
僕は昔彼女がしていたように、自分のマフラーを外してたたむ。長さがそれなりにあるから、枕代わりにはなるだろう。
寝るときは体温が下がるから、風邪をひかないようにと僕のブレザーを彼女にかける。
こんなことで寒さを凌げるとはあまり思わなかったけど、小柄な愛惠ちゃんには僕のブレザーは結構大きいみたいで、それなりの掛け布団になった。

目の前で深い眠りに落ちる彼女の横で床に座りながら、朝から頑張って作ってくれたのだろうお弁当を食べていた。
この卵焼き、甘いや…。


「……今日も、暖かいや。」


この曇り空はロシアとつながっているけど、きっとどこかの空は晴れている。




*



「最近イヴァンさん、嬉しそうですね!」

「んー?そうかな?」

放課後、僕はいつもの場所にラトビアとリトアニアを呼び出して国の情勢などの情報を集めていた。
まあ能天気な国ばかりだから、滅多にニュースになっていない情報なんて集まってこないんだけど。

ラトビアは僕をみてそんなことを言っているけど、実際今日の僕は機嫌がいい。

「はい。ロシアさんが機嫌がいいと、僕が小さくならなくて済むので嬉しいです。」

「ラ、ラトビア…!!(なんでいつも一言多いんだよ!!)」

「うふふ、いいんだよリトアニア。今日ぐらいは許してあげるよ。」

「えっ……ほんとうに今日のイヴァンさんはどうしたんですか?」

「あ、もしかしてあの人ですか?
この間からお付き合いしてるっていう、高梨愛惠さん…」

……。
確かにその通りだったけど、僕以外の口からその名前を聞くのは少しだけ不愉快だった。
けれどラトビアは、僕の気持ちなんて気にも止めないで話し続ける。

「たしかに可愛かったなぁ。でも、いつも愛惠さんの隣にいる友達は怖かったなぁ…。
ロシ…イヴァンさんはあの人のどこを好きになったんですか?イヴァンさんならあんな子よりもっと…」

「……うるさいな。」

「もっと、ベラルーシさんみたいな人の方がお似合いだと思…」

ゲシ、なんて効果音は聞こえなかったけど、人間をけるのにはそれなりに力がいる。
小さなラトビアはいとも簡単に床に転がった。

「ラトビア!!!」

「すこし黙ってくれない?
今日は機嫌がいいから何もしないでおこうと思ったけど、気が変わった。」

「な、なん…でっ……けほ、」

「君みたいなのが彼女のことを口に出していいはずがない。何も知らないくせに…。」

鳩尾に入ったのか、息が詰まったラトビアはお腹を抑えて床にうずくまっていた。
僕はそのお腹をけろうと近づく。

「僕に譲歩なんてないの、知ってるよね?」

「やめてくださいイヴァンさん!」

ラトビアを庇うように僕の前に出るリトアニア。
その態度が、余計僕の癪に障る。

「……君まで僕に反抗するつもり?
仲良くなれない子は……いらないよ。」

そう。いらないんだ。
僕は右手に用意した蛇口を高くあげる。
充分うえまで上げて、振り上げようとした、そのとき。

どん!

後ろからの衝撃に、僕は一瞬思考が止まる。
背中の方を確認すると、見知った背の女の子が僕にしがみついていた。

なんで

「えっ……君、どうしてここに…。」

一気に加速を始める僕の心臓。

見られた。僕の汚いところ。

「やめてください…先輩!!!」

そういった愛惠ちゃんに、加速を始めた心臓が一気に冷えていく。
ああ、君も僕の味方ではないんだね。


「………はなして。」

僕の一挙一動に、目に見えて肩をあげる彼女は、それでも僕から離れようとしなかった。

「愛惠ちゃん。放して。」

「だ、だめです…だめなんです、その人たちを殴っちゃ…!!」

「………。」

これじゃあ僕が悪役みたいだ…。

静かに腕を下ろした。
僕は目も向けずにラトビアとリトアニアを突き放す。

「……もう行っていいよ。早く消えてくれないかな。」

しばらくして二人の足音が遠ざかったあと、愛惠ちゃんは腕を開放して震える足で数歩下がった。
彼女が顔を上げると、震え上がった瞳と目があった。

「……ぁ…っ……。」

わからない。

全然わからないよ。

「なんで僕の邪魔をするのか、聞かせてもらえるかな?」

何で僕を見て怯えるの?

全部全部、僕が悪いの?

「………ごめ…な……さ」


僕が欲しいのは謝罪じゃない。


もう、疲れたよ。


「君の考えてることがわからない。
僕の邪魔をするなら、いらないよ。君も。」



いらない。



そうだ、僕のものにならないなら、突き放してしまえばいい。




だれも僕を救ってはくれないんだ。



「恋人ごっこももう終わり。
明日からお弁当作ってこなくていいから。さよなら。」






さよなら。







|

BACK

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -