冬に咲くひまわり side:R 3
僕とお付き合いしてください。
とは言ったものの、今まで重労働とか戦争しかしたことなかったから、具体的に何をすればいいのかなんて全く思い浮かばなかった。
取りあえず、僕が思い浮かぶ恋人を想像してみる。
えーっと、一緒に寝る?
………だめだめだめ、これはさすがに早すぎるよ。僕でもわかる。
キス。
これもなんか違うな。そもそも僕は目の前の彼女が好きというわけではないと思うし。
手をつなぐ。
うーん、やる意味がわからないな。暖かいだろうけど。
一緒にご飯。
あ、これ良さそう。
「……つまり?」
意味のわからないといった様子であたふたする後輩に、もう一度言葉を変えて説明する。
「ん、分からなかった?じゃあもう一回言うね。
普通科高梨愛惠ちゃん。僕のものになってよ。」
こんどはなぜか絶望した表情。寒いのか血の気が引いてる。
まあ、そんなことはどうでもいいや。
「で、返事は?うんかはいで答えてね。」
「はいいいいい!!!」
*
さっそく次の日からご飯を一緒に食べることにした。
リトアニアたちをつかって屋上は人よけさせておいたけど、11月の屋上はそこまで必要なかったかもしれない。
彼女は自分でお弁当を作ってきているみたいで、見かけによらず少し大きめのお弁当の蓋を開けた。
中にはアメリカくんの家の食べ物よりずっとおいしそうでカラフルなおかずがたくさん詰まっていて、感心する。
すると彼女は明日は僕のも作ってきてくれると約束をしてくれた。
べつに食事に困っているわけではないけど、約束とか、無償で何かをされるのとかになれていなくて、でも嬉しかった。
また次の日。
僕はドキドキしながらお昼の時間帯を待ちわびて、普通科へ向かった。
ほんとうに用意してくれたお弁当箱。一段目だけが色違いのお弁当箱には、昨日の愛惠ちゃんと同じような美味しそうな具が詰まっていた。
実は、本当は作ってきてくれないんじゃないかって朝にサンドイッチを買ってきたんだけど…今ならなんでも入りそうだ。
おかずに口を運んでいると、急に青い顔になった愛惠ちゃんを見やった。
「先輩……ごめんなさい!」
「え?なに、どうしたのさ。」
「そのお弁当箱、二段分おかず入ってて…。」
こんなに美味しい料理を作れるのに、なかなかドジな子みたい。
その日の放課後、僕は帰りの支度をしながら早くも明日のお昼を心待ちにしていた。
人に会うのが楽しみなのは、すごく久しぶりのことだった。
僕はいまではすっかりとかけなれた鞄を肩に収めると、うしろの席のフランス君が話しかけてきた。
「イヴァン〜、お前この前後輩に告白したんだって?
なんでまたそんなこと…。」
普段から仲良くしてもらっているけど、その質問は他人にとやかく言われたくない事だ。
僕は少し突き放すように答えた。
「うるさいなぁ。僕が誰と何しようと君には関係ないでしょ。」
フランス君は慣れた様子でそれをあしらう。
「そりゃそうなんだけどさ…俺はその子のことを思って言ってんの。
危険な目にあわなきゃいいけどな…。」
多分、ウクライナ姉さんとベラルーシの話をしていることはわかった。
でも、不快なことには変わりない。
いくらフランス君でも、踏み込んじゃいけない領域だよ。
「……それこそ、君には関係のない話だよ。
僕もう行くから。До свидания.」
「あ、おいイヴァン。」
「今度はなに?」
そんな怖い顔しないで、と苦笑いするフランス君。やっぱり、フランス君は扱いにくいなぁ。
「もしお前が本当に大切な人ができたらお兄さんは応援するよ。
でも、そのときは…人と国の時差を考えろな?」
人と国の、時差。
僕はわかりきったその言葉に、でもほんの少しだけ悲しくなって背を背けるように教室を出た。
少しだけ冷たい秋の風が、ロシアから冬を運んでくるようだった。
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