二周年記念小説 | ナノ

冬に咲くひまわり side:R 2



ひまわりを見つけて、しばらく経った。
春まではまだすこしだけ遠くて、それ以来僕はそこの公園を迂回しても彼女に会うことはなかった。
兄妹は天気がいいと相変わらずその公園で遊んでいて、雪だるまも彼女が作ったものの隣にひとつ、またひとつと増えていた。
もうすぐ雪が止んでしまうのに、なんて不毛な遊びなんだろうね。

今日も僕は散歩程度に放課後の帰り道を時間をかけて歩いて、その公園にたどり着く。
からりと晴れた夕暮れ時の赤紫に、けれどいつも遊んでいる兄妹は二人して公園の入口に立っていた。
それで、僕が通り過ぎようと前を通るとじっとみつめてくる。
予想外の行動に、僕も歩みを止めてしまった。

「「……。」」

「…な、なにかな?」

「……おにいちゃん、たぶんこのおにいさんじゃないよ。」

「うん、たぶんちがう。」

なかなか慣れないことになんのことだろうと視界を彷徨わせていると、男の子の持っていた紙袋に赤い衣類を見つけた。
ああ、マフラー。そう思って、僕はその兄妹に再度話しかけた。

「そのマフラー、君たちの?」

「ダメ!あげないよ!
たいせつな人のものなの!」

女の子は僕に大声を出して威嚇する。
多分僕の体が大きいから、怖いんじゃないかな。だからってしゃがんであげないけど。
男の子は自分の妹を後ろに隠すと、口を開いた。

「この前、雪だるまを直してくれませんでしたか?」

「……。それは僕じゃないよ。」

その言葉を聞いてわかりやすく残念そうに声音を下げる男の子。

「そう、ですか…。」

「でも…君たちの作った雪だるまを直した人を知ってるよ。」

「えっ…!」

「ほんとう!!!?」

僕の言葉で、またわかりやすく希望を取り戻した兄妹。
きっとのこの子達は餓死も凍死も瀕死も体験しないまま一生を終えるんだろうな。
僕は微笑んで、手を出した。

「うん。だからそれ、渡しておいてあげるよ。」

男の子は、僕の手にその紙袋を手渡すと、今度こそ満面の笑みで口を開いた。

「ありがとうございます!」

「ありがとうがいこくのおにいさん!」

僕は、久しぶりに聞いた「ありがとう」に、少しだけ胸が暖かくなった。
もうすぐ、春かな。



*



ひまわりを探すのは簡単だった。
彼女はうちの学園の高等部普通科一年の高梨愛惠ちゃん。
自宅通いの両親共働き、交友関係は手狭。成績も中の中。特記するほどの個性もないような少女だ。
エストニアに調べさせたはいいものの、なんでこんな子の為に僕はあの兄妹からマフラーを受け取ったのかわからず、直接会って渡す気も湧かなかった。
冬が過ぎても渡せないままのそれに少しだけ負い目を感じて、僕は帰り道にその公園に寄らなくなった。
いよいよ視界に映る赤が鬱陶しくなって、僕は新学期が始ったその日に早朝の学園で普通科の2学年のクラス替えを確認して、彼女の机の中にそのマフラーを入れておいた。

それから、なんの興味も持たなくなった彼女の存在を忘れて季節は移ろって行った。
特進科と普通科は接点がなかなかない。時々移動教室でその姿を見てもさして何も感じずに、夏休みが終わり、文化祭やハロウィンなどの行事も目まぐるしくすぎていった。

そんな時。
僕はたまたま教師の頼みで普通科の職員室へ行く用があって、そのついでに校内を探検していた。
赤く廊下を染める太陽は緩やかに沈んでいって、僕はその時間の空気が日本に来て一番初めに綺麗だなと思えた。野球部のうるさい声がとても遠くに聞こえた。
人気のない廊下を静かに歩いていると、教室のひとつから話し声が聞こえてきた。
通り過ぎようとしたけど、彼女のその声をきいてなぜかその教室の前で立ち止まっていた。

「え、なんであの先輩!?
あんたってあんな感じがタイプなの?」

「ち、違うよ!
ただ気になるだけで…。」

この年頃の女の子も男の子も、異性に興味があるよね。
僕は彼女に好きな人がいようがいまいががどうでもいいけど、今更歩みだすのもためらわれたからその会話を盗み聞きしていた。

「それを好きって言うのよ。」

「だから違うってっ!
初めて会った時に、よくわからないけど…守ってあげたくなったというか…。」

「……。男前だね。」

「なんでそうなるのっ!
恋愛対象としてじゃないよ!多分…。
なんか、泣きそうな弟をあやすような感じで…。」

「あの先輩をあんたの弟と同等に扱うとは…なかなか言えるモンじゃないよ、その台詞。
んー、母性愛かな、そりゃ。」

「あはは…本人が聞いてたら私明日から学校来れなくなりそうだね。」

「はは、噂が本当ならね。」

僕は途中からその内容を聞き流して、彼女の口に出したある言葉が頭から離れなかった。

彼女は恋人ができたら、いつかのあの日みたいにまた救いの手を差し伸べるのだろうか。
…いや、これは変だ。僕はあの日、彼女に救われた気はしたけど直接的にそうされたわけじゃない。
仮に彼女が人を好きになって、その人とどうなろうが僕はなんとも思わないはずなんだ。

「………。」

なんだろう…何かはしらないけど、すごく嫌な感じだ。
みんなが離れてしまったあの時に感じたような痛み。

また僕は一人になる?

―違う、僕はもうひとりじゃない。

あの日感じた眩しさと暖かさは、誰か一人の人間のものになるの?

――そもそも、彼女は僕のものじゃない。

じゃあ、何で今こんなに腹立たしいんだろう?

たかが人間一人。彼女よりもすごい人間を僕はたくさんたくさん見てきた。
なのになんで彼女なのか。



―――手に入れてみれば、わかるかな?








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それは、純粋な独占欲。
予想以上に長くなりそうです。(土下座)

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