過去拍手夢 | ナノ



「好きよ、蔵。」





そういって、膝を枕に眠る彼の髪を撫でる。


日を遮断する薄紅色のカーテンも、

乱れて掛け布が半分床に着いたベッドも、

朝が来れば儚く消えてしまうような一夜の絆も、


目を逸らしたくなるような現実も。



今では全てがどうでもいい。







――毒だ。





彼の容姿は人を魅了し、

彼の笑顔は人を骨抜きにし、

彼の声は人を酔い潰し、

彼の存在は人を惑わす。



彼はそう、まるで麻薬。




一度吸ったら抜けられない。

頭がおかしくなるほどの吐き気も、
うるさく鳴り響き続ける頭の警報も。
それすらも気持ちがよくなるほどに。

侵されれば侵されるほど、狂おしいほどの快楽に沈む。
全てがどうでもよくなるように。

回りが敵に見えるように。


世界が甘ったるく染まるの。










それはまるで、毒薬のように。