過去拍手夢 | ナノ
「おめでとう、トニー」


私はそう言って、目の前の青年に笑いかけた。
彼は自由に遊ばせた、柔らかそうなくせ毛を照れ隠しの代わりにかいて、小さい声でおおきに、と呟いた。

「自分も、素敵な人見つかるとええなぁ。」

小さくて可愛くて、守りたくなる彼女の右手は、その青年の少し固くて大きな、男らしい左手と繋がっている。私はその手をしばらくの間眺めている。
私の胸に渦巻く気分の悪い感情は心臓を執拗に囲んで、晴れる気配がない。それでも皮肉げな笑をその顔に刻み、空虚な祝言を吐き出すのだ。

「そうね、頑張って探してみる。」

トニー、貴方は知らないのでしょうね、私の抱く醜い感情を。
貴方と知り合うずっと昔から、私は貴方を慕っていたことを。
その手に握られた温もりが、セカンドハンドの安ぽいものだってことも。

ああ、醜くて哀れな私。



もういっそ、全部消えちゃえばいいのに。





(帰ってきて、)(だなんて)