過去拍手夢 | ナノ
「フランシス、いい加減一人に絞りなよ。」

いつつ、なんて情けない声を上げるフランシスの口元に消毒液を浸す。じわりとしみたところから朱色に染まって、やっぱり痛そうだった。
けど、いつものことだ。

「はい終わり。」

「いつもありがとう。
お兄さんは幸せ者だなぁ。」

子供をあやすように頭を撫でるフランシスに、もう反抗する気も起きないほど繰り返された行為を黙って享受する。
いつだってあなたは、私を恋愛対象としてみてはくれないのね。

「?どうかした?」

フルフルとうつむきがちに首を振る。
いい加減、気づいてよ。

「なんでもない。
まったく、いつまで経ってもフランシスには私が必要なんだから。」

そうとぼけて見せると、彼は綺麗なブロンドを揺らして困ったような嬉しいような顔をして、またいつも悪いね、とそう呟いたのだった。

「………フランシスに、いつか本当に好きな人ができたらさ。」

「うん?」

「そしたらーー私に真っ先に言うんだよ?
フランシスの恋、応援するから。」

どうか、気づかないで。私の気持ちを悟らないで。

「……わかったよ、真っ先に言うよ。」



もう少し、もう少しだけ

世界で一番近くで貴方を見ていたいの。




(報われない)(恋の秘め事)