ファーストキスは苦味を足して
よくファーストキスはレモンの味だとか、甘いいちごの味だとか言われてる。
俺さまはキスしたことないから、味なんて分からないし、そもそも無いだろとか思ってるけど…実際は興味はあったりしてるんだ。
放課後の教室。雪がちらついて見える窓を背に、オレはアンジュを見つめた。
授業が終わり、オレさまとアンジュしかいない…のは、いつものこと。違うのは、オレさまの頭の中を支配してるキスというふた文字。
ただ、それだけ。
「なあ、アンジュ…」
「ん?なあに?」
ふわり、と本を見ていた顔をこちらに向けるアンジュ。俺の目は無意識にアンジュの唇を見ていて、なんだか色々と恥ずかしくなって、俺は帽子で顔を隠した。
「ビター?」
「あ、や………なんでもねえ」
というか、言えない。
『ファーストキスはどんな味だと思う?』
なんて、な。
「…?変なビター…」
そう言ってアンジュはまた本に顔を戻した。
ああ、チャンス逃した気する。
と頭を抱えて後悔してたらアンジュがいきなりパッと顔をあげた。その顔は何かを決心したような表情で、思わず息を呑む。
「あ……ああああのさビター!」
「な…なんだ?」
「……キスって、どんな味だと思う…?」
「へ?」
うわ、間の抜けた返事をしてしまった。
いやでもそうなるだろ?なんで…
「なんで同じこと…」
「へ……ええ!?」
よほど驚いたのか、アンジュは本を落とした。
理由を聞くと、すずに恋愛の話を持ちかけられてファーストキスの話になったんだとか。さすが女子。恋愛トークが好きときた。
それにしても何と言う偶然。
「た、試してみるか?」
「…え?」
「ファーストキスってものを」
ちょっと顔を近づけてみる。
アンジュの顔は見る見るうちに赤くなっていって、何だかリンゴみたいだと心の中で笑った。
「……うん」
ファーストキスは苦味を足して
「あまくないぜ…」
「ビターチョコレートだからかな?」
「…なーるほど」
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