愛酔
◆山田side◆
私は大学の演劇部の練習場に来ている。
小杉先輩が今回の舞台のテーマが『月と酒と涙のラブゲーム』ということで、私とみどりの2人は舞台上で”きき酒”対決をすることになっている。
今、私とみどりは必死に”きき酒”の瓶に貼るラベルを作っている。
「ねぇ、弘子。
この瓶のラベルの色はこれでいいのかな?」
「えっと…、うん、この色で大丈夫だよ」
私は美術の子が書いたデザインシートを見ながら、ラベルの色を確認していく。
”きき酒”の瓶はリハーサルと本番用にと数十本を用意しないといけないので急ピッチに作る。
2人で黙々とラベルを作っていると、みどりが口を開いた。
「こんなに瓶を作るけれど、本番で飲みきれるかな???」
「中身は”水”だっていうから大丈夫じゃない?」
「そうだよね♪でも、酔っぱらう演技とか”きき酒”のやり方や味とか事前に知っておかないといけないよね」
「確かに……」
(お父さんや桂木さんに銘柄のことを聞いた方がいいかな…)
私もお酒がそんなに強い方じゃないし、”きき酒”対決なので日本酒などの知識もないと駄目だよね。
「そうだ!弘子、練習の後は時間ある?」
「今日は官邸に寄る用事が無いから大丈夫だよ」
「居酒屋に行ってさ、美味しい日本酒とか教えてもらおうよ!」
「うん、それ、いいかも!」
「でしょ?今日って中秋の名月だしお酒も美味しいよ。月見酒しちゃお♪」
と、みどりと2人で盛り上がっていたら、私たちの会話に小杉先輩が入ってきた。
「面白そうね!ぜひ、私も行くわ!!!!」
「「小杉先輩!!!」」
「やっぱり演技をするにはちゃんと知識が必要よね。
ぐふふふ。
どのお酒を嗜もうかしら、ぐふふ☆」
(そういえば、小杉先輩ってお酒が好きなのよね)
私は小杉先輩の眼鏡がきらーんと光ったのを確認した。
「じゃあ、いつも演劇部の打ち上げで使っているお店に予約しますね」
「小竹さん、ありがとう。任せるわ。
あっ!ちょっと、そこの石はそこに置いてちょうだい!!!」
小杉先輩は舞台で使うセットを作っている人たちに向かって大声で注意すると共に、その人たちの所へ行ってしまった。
〜〜♪♪〜〜
私の鞄から携帯電話のメールを受信した音が聴こえた。
「あ、”彼”から?」
「ふふ♪そうだといいな」
私は鞄から携帯電話を取り出して、メールの画面を開いたら”彼”からのメールだった。
その”彼”というのは……。
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