※黄瀬くんも黒子くんもひどい人です


ごめん、行けなくなった。

いきなり、例えば彼が約束の時間の30分前にそうメールを送ったとしても、ナマエは文句一つ言わないで、残念だけれどわかった、と返事をするのだろう。

彼女は何も言わない、何も文句を言わずにただひっそりと誰にも目のつかないところで泣く。


「…ナマエ?」
「あ、テツ…くん…」
「また、黄瀬くんに隠れて泣いてるんですか」
「…っ泣いてないよ。泣いてなんて」


気づかれないように、という彼女の配慮も影の薄い自分の前では役に立たないのか、それとも幼馴染の自分が特別だからなのかは知らない。もう何度目だろう?ナマエが自分以外には誰もいない教室に入って来て、ひっそりと泣いているのに遭遇するのは。


「そこまでされて、何で…」
「…テツくん、私は平気だから。黄瀬くんは何も悪くないんだよ。モデルのお仕事が入ったのかもしれないし、練習だって毎日忙しいから他のお友達と遊ぶ用事が入ったのかも…。私は、ほら、私なんかより…」
「ナマエ!」

その両目から大粒の涙を拭うこともせずに零している彼女に、普段なら絶対に出さない大声で彼女の名前を叫ぶ。彼女がそれに驚き口を閉じたため、自分を卑下する彼女を見たくない、という目論見は成功した。


「もう無理…しないでください」
「………ッ!テツくん…私、何がダメなのかなぁ。黄瀬くんに嫌われたくないのに、私、黄瀬くんがわかんないよ…」


ボクは知っている。黄瀬くんがどんなにナマエを裏切っても、それでも好いてくれるナマエのことを本当に愛しているということ、ただ以前のことからあまり女の人を信用できなくなっているだけだということ、

そして、今この教室の外に、恐らく素直になろうと思い直した彼が立っているということを。


「ナマエは…ナマエはそれでも、まだ黄瀬くんのことを好きですか…?」
「………」
「わからない…ですか?」
「もう、好きでいるのが…つらい、かな」


ナマエが涙を浮かべながら辛そうに微笑むと同時に、ガタン、と扉が鳴る。ナマエがその音のした方に首を向けると、目を見開いている彼とナマエの目が合うのが解る。


「え、黄瀬くん…!?」
「ナマエ、…追わないでください」
「テツくん…?」
「少しでもボクのことを大切だと思うなら…追わないでください」


走り出した彼をすかさず追いかけようとするナマエの手を掴む。ボクと彼を天秤にかけさせるようなことを言うと、その瞬間ナマエの顔が苦しそうに歪み、そして腕の力が抜けた。そっと引き寄せてもナマエは抵抗もせず、ボクの胸の中でまた小さく嗚咽を漏らした。


彼に浮気疑惑、彼女は怒りもせずに泣いた

ボクはもう二度とこれから
彼女が泣くことがないことを望む


title:ペトルーシュカ
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黄昏様に提出
2013/01/05
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