「………」


練習終わりにそのまま寄った敦の家で、私は彼の首筋を凝視している。彼は座って本を読みながら、小粒のチョコレートを食べていた。チョコを触った手でページをめくると本が汚れちゃいそうだな、何てことも考えながら。でも一番私の頭の中を占めているのは、彼の首筋を舐めてみたいという欲望だった。

そっと彼の顔に、顔を近づけて舌を伸ばす。敦は首筋に近づいている私を視界の隅には捉えているだろうけれど、止めようとはしない。私の舌先が暖かい敦の首についた瞬間、彼がびくり、と反応する。


「うわっびっくりしたぁ。…何、何でいきなり舐めるの」
「敦いっつもお菓子食べてるから、首とか、舐めたら甘いのかと思って」


舐められるのは予想外だったらしい、ゴトッと音を立てて敦の読んでいた本が床に落ち、敦は私を非難する。私の言ったことは正確ではなくて、本当は敦の体全部が甘そうだと私は以前から思っていた。


「…ナマエちんって頭いいのにそういうとこ馬鹿だよね」
「馬鹿ってひどいな…」
「お菓子の食べ過ぎで甘くなるわけないじゃん」
「物理的にありえないことする敦なら甘いかもって思ったの」
「…そう」


バスケットゴールを壊したり、ね。そう言うと敦は床に落とした本を無言で拾い、その表紙を撫ぜた。ペラリ、と再びページを開き本を読み始めた彼に放置された気がして、舐めた彼の首筋の味の報告をすることにした。


「敦、むしろしょっぱかった」
「練習したもん、汗だよそれ」
「え」


パタン、と音を立てて敦は本を閉じた。別に敦の汗が嫌だった訳ではないけれど、思わず声が出てしまったことで彼を不機嫌にさせてしまったのだろうか。


「………あぁ、もう。本読んで気、逸らそうと思ったのに」


声色から別に不機嫌になったわけではないことが解って息を漏らす。真っ直ぐに私の瞳を見つめる彼の視線に耐えきれなくて、床に先ほどま敦が置いた本の表紙を見つめる。

敦にしては随分と難しそうな本を読むんだなぁ、なんて必死で気を逸らそうとしたけれど視界の端に敦が私に近づいてくるのが見えて、さっきの敦もこんな気持ちだったのかなぁ、なんて漠然と考えている時に首筋に生暖かい柔らかい物の感触が走った。


「ひぁッ…。」
「…ナマエちんだってしょっぱいじゃん」
「今日暑かったから、だよ…」
「じゃあ汗じゃん…ナマエちん自分のこと棚にあげすぎー」
「うぅ…」


首筋に走った感触が敦の舌によって引き起こされたことに気付くのに時間は一秒もかからなかった。必死で視線を合わせまいと彼と反対方向を見ていたけれど、顔を両手で押さえられて無理やり視線を交錯させられる。その視線が合ったまま、再び彼の顔が近づいてきて、私は瞳を閉じた。


甘い、甘い、彼のお味は?


「…さっきの声、かわいかったからもう一回舐めてもいい?」
「だ、ダメ!」
「無理、ナマエちんに舐められただけでもう結構キてたのに」

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