それは、ほんの一瞬のことだった。
相手から放たれた銃弾が、名前に当たった。
…名前は、俺をかばって、前に出た。
すると鮮血が舞い、あ、と思ったときには遅かった。
「名前…お前、どうして…!」
駆けつけた俺に、名前は一言だけ言った。
「土方さん…生きて、下さい」
俺は…彼女の最期に、何も出来なかった。

その後からの俺はおかしかったらしい。
一時休戦状態になると、さすがに皆が休めと言ってきた。
本当は休む暇なんてない、名前のためにも戦わなければいけないんだ。
しかし俺は今、木陰で休んでいる。
名前がいつも持ち歩いていた簪を握りしめて。
「名前…」
そういえば、俺は泣いていなかったかもしれない。
あの日から、ずっと戦いに明け暮れて…
「名前…っ…」
なんでお前が死んで、俺が生き残ってるんだ。
本当は…俺がお前を守らなきゃいけなかったのに。
「っ…悪い…名前…っ」
隠していたものが一気にこみ上げてくる。

お前とずっと一緒にいたかった。
戦争が終われば幸せに暮らせると思っていた。
なのに、名前が俺をかばって死んで…俺はどうすればいいんだ?
『私は何もできないですから』
そんなことなかった。
俺は、名前がいるだけで救われてたんだ。
『私の分も、頑張ってください』

「土方さん、大変です!」
戦争は待ってはくれない。
俺は一息吸うと、いつもの『鬼』の自分に戻る。
「どうした」
「新政府軍が攻めてきました!」
「そうか」
そろそろか、とは思っていた。
しかし、この量では…
俺は、簪を握りしめ、目を閉じて言った。
『生きて』
「…悪い、名前…」

約束は守れない

「お前の分も…戦ってくる」
そう言って俺は、戦場へ一歩踏み入れた―





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