暖かい春の日のことだった。
「ねえ、はじめ」
浅葱色の羽織を着ようとしていた俺に、名前が話しかけてくる。
「何だ」
「…私ね、幸せだよ」
突然の言葉に俺は驚いた。
―俺と名前は恋仲であった。
真っ直ぐに生きる強い名前を、俺はいつの間にか好いていた。
そしてどちらともなく想いを伝え、俺たちは恋仲になった。
会えることが嬉しくて、しょっちゅう会いに行っていたものだ。
…だが、最近は。
「あんまり会えなくても、いいの」
俺は新選組の仕事が忙しく、会う時間も少なくなっていった。
今日もせっかく会えたのに、俺はまた巡察に出ようと羽織に手をかけている。
「…悪いな、名前」
「ううん、大丈夫。 お仕事頑張ってね、はじめ」
名前はニコリと微笑む。
「…ああ、ありがとう…」
その笑顔に、俺は安心していた。

―だが。
「名前が…死ん、だ?」
久しぶりの非番の日。
名前の家を訪れると、返事はない。
代わりに、名前の知り合いだったという女に話しかけられた。
そして、彼女は涙ながら言った。
『名前は死んだ』と。
「何故…名前が…、」
詳しいことはこれに、と手紙をもらった。
―名前から俺へと預かった手紙だという。
俺は混乱する頭を抱えつつ、その手紙を読んだ。

はじめへ
この手紙を読んでいるということは、私は死んだんだね。
はじめは私を強いって言ったけど、本当は全然強くなんかない。
弱くて弱くて…だから、労咳なんかにかかっちゃって。
労咳だって言われたとき思ったのは、はじめのこと。
はじめと会えなくなるのは、嫌だなって…
…ねえ、はじめ。
私、本当は死にたくないよ。
ずっと、はじめと生きていきたかった。
…けど、それは無理みたい。
ばいばいはじめ、ありがとう。
幸せだったよ。 名前より

「…っ、名前…っ、」
読み終わると、俺は手紙を握りしめ、涙をこぼしていた。
俺は、何をしていたんだ?
一番大切な彼女を守らずに、仕事にばっかり明け暮れて…
名前を幸せにできなかった。
「…せめて、」
もう一度、彼女に会いたい。
「…―」
俺は無意識に刀に手をかけていた。

君のもとへ

意識が遠のく中、聞こえるのは悲鳴。
ああ、名前―
今度は2人で、幸せになろう。




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