私は、見てしまった。
それが彼らとの出会いだった。

「ここが江戸…」
私は雪村 千鶴。
突然いなくなってしまった父様を探すため、はるばる江戸までやってきた。
私は自分の格好を見直す。
(男装は完ぺきだし…とりあえず、町の人に聞いてみよう!)
そうして私は聞き込みを始める。
―だが。
「情報…一つも無しかあ…」
父様の目撃情報は無し。
一つくらいはあると思っていたのに。
「…っ、痛っ!」
下も見ずに歩いていると、何かに躓いて転んでしまった。
「っ…どうしよう…」
父様、どこにいるの…?
呆然と佇んでいると、目に入ったのは。
「浅葱色の、羽織…」
その羽織を着た人たちは、薄暗い路地裏に入って行く。
(…あの人たちなら、何か知ってるかも!)
そうして私は立ち上がると、彼らの後ろを追った。

「あ、あのっ!」
私が勇気を出して声をかけると彼らはピタリと立ち止まる。
「私、人を探しているんですけど、髪型は、」
父様の特徴を出し、知っているかどうかを聞こうとした、そのとき。
「……えっ?」
「ひひ…」
彼らの髪が、突然白く変わった。
「何…? どうしたん、ですか? …痛っ!」
いきなり振り返った彼らは、ニヤリと笑って私の腕を掴む。
強く、強く、握りつぶすみたいに。
「やめ…い…っ、」
「血…血をよこせえ…!」
一人が舌舐めずりをすると、残りの二人が刀を持つ。
殺される―!?
「やだっ、やめ、」
大きな声は怖くて出ないし、そもそも路地裏だから届かない。
父様…ごめんなさい、私…
そうして覚悟を決め、ギュッと目をつぶったとき―

「やめろ!」

風が吹き抜ける。
ブシャッという音がして、握られていた手が放たれる。
何…? 何があったの…?
恐る恐る目を開けると、そこにいたのは。
「ふう…危なかった」
浅葱色の羽織を着た、綺麗な顔の男の人だった。
「大丈夫? 怪我してない?」
彼は私を見ると、ニコリと微笑む。
―地には彼らの死体を、手には血のついた刀を持ったまま。
「は、はい…大丈夫、です」
「そっか。 よかった」
怖かったけど…この人の笑顔は、何か掬われる気がする。
よかった…私、生きてる…
ホッと胸をなでおろしていると、路地裏に足音が響く。
すると現れたのは、同じ浅葱色の羽織を着た二人の男の人だった。
「あー、いたいた名前。 先に行かないでよ」
「探したぞ…」
「ごめんごめん」
二人は私と彼らの死体を見ると、眉を寄せて怪訝な顔をする。
「まさか…」
「…見られてしまったか」
「ごめん…だって、彼女が危なかったから」
「ね?」と彼はまた微笑む。
「は、はい…!」
わざわざ助けに来てくれたんだ…!
「…ねえ、一くん」
「…ああ」
二人は頷くと、私をまっすぐと見る。
そして、茶髪の人が口を開く。

「君―こいつらを見たね?」

え…?
「見ました、けど…」
「彼らはなんと言っていた?」
「えと…『血をくれ…』とか…」
「…そうか」
ふう、と三人が息を吐く。
「あの、私、用があるのでこれで…」
なんとなく怖くなり、その場を去ろうとすると。
「…だめ。 君は、彼らを見たんだから」
血のついた刀を突き付けられる。
彼のさっきまでの笑顔は消えていた。


鋭い視線


三人の真剣な眼差しが私へと向けられる。
ああ、私―
『見てはいけないもの』を見てしまったんだ。
何故か分からないけど、私は直感的にそう感じていた。



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