それは、突然のことだった。
「千鶴ちゃん、今日から一緒に広間でご飯食べよ?」
朝起きて着替えを終えると、いきなり入ってきた苗字さんにそう言われ、私は唖然とした。
「え…でも、それは…」
「だって一人で食べててもつまんないでしょ? 皆と一緒に食べたほうが楽しいよ」
ニコリと微笑む苗字さんに、思わずドキッとする。
はい、と言いそうになりつつ、私は我に返る。
「でも、苗字さんが土方さんに怒られてしまいますし…」
私を一番良く思っていないのは、言うまでもなく土方さんだ。
今だって部屋から出るのも駄目なのに、一緒にご飯だなんて…
「ああ、それは大丈夫。 土方さんに怒られるのは慣れてるから」
「え」
「てことで、さ」
「え、ちょ…苗字さ…っ!」
私は立ち上がった苗字さんに腕を掴まれ、部屋の外へと出てしまった。

そして、連れてこられたのは調理場。
「じゃあまず作るの手伝ってくれる?」
「え、あ、はい…」
野菜を手渡され、思わず返事をしてしまう。
今日の食事当番は苗字さんと斎藤さんのようで、斎藤さんはたすき掛けをしてお味噌汁を作っていた。
「…名前、」
斎藤さんは私をちらりと見ると、苗字さんの名前を呼ぶ。
「大丈夫。 土方さんは何とかするから」
「だが…」
「いいったらいいの!」
「…はあ」
斎藤さんは呆れたようにため息をつくと、またお味噌汁に向き直った。
「あの…本当によかったんでしょうか…?」
「大丈夫、一くんのことは気にしないで」
そう言われても…
…でも苗字さんが大丈夫って言ってるし、私はそれに従ってみよう。
「えっと、私は何を作れば?」
「んー、じゃあお浸し作れる?」
「大丈夫です!」
頂いたほうれん草はもう既に茹でてあって、あとは切って味をつけるだけ。
包丁をもらって切っていると、苗字さんがこちらを見ていた。
「何か…?」
「随分慣れた手つきだね」
「あ、ずっと自分で料理してきたので…」
「ふうん…」
苗字さんは私の手元をジロジロと見ると、
「良いお嫁さんになりそうだね」
そう微笑んで言った。
「えっ…!」
「あはは。 顔、赤いよ」
だ、だって…こんな綺麗な男の人にそんなこと言われるなんて…!
「…ごほん」
「あ、ごめん一くん」
「ご、ごめんなさい」
斎藤さんを見ると、もうお味噌汁が出来ていた。
「ご飯も炊けたし魚も焼いたし、あとはお浸しだけだね。 美味しく作ってね?」
「が、頑張ります…!」
そんなこと言われたら緊張する…!
ドキドキしながら作り進める。
…その間、苗字さんと斎藤さんは私を見続けていた。
「…できました!」
うん、ちゃんと出来た、と思う。
「ありがとう。 すごく美味しそうだね」
「…ああ」
2人が褒めて下ったから、私は少し安心した。

「じゃあ運ぼうか」
「手伝います!」
「ではこれを広間に頼む」
「はいっ!」
そして、2人と広間に向かっていると。
「…あ」
「あ」
「ひっ!」
廊下で会ってしまったのは、土方さんだった。
「名前、てめぇ…」
「お説教ならあとで聞きます。 今はご飯にしましょう?」
「…ったく…」
「あ」
土方さんはため息をつくと、苗字さんの持っていたお盆を取り上げる。
「何ですか? 手伝ってくれるんですか? 鬼の副長が?」
「うるせぇ」
「あ、これは総司にも言わなきゃ」
「待てコラ名前!!」
「嘘ですよ。 せっかくのご飯が冷めちゃうので早く持っていってください」
「…お前のせいだろう」
「なーに? は じ め く ん」
「なんでもない」
苗字さんは笑いながら調理場に戻って行き、私は土方さんと斎藤さんに着いて行く。
少しだけ、皆さんの素顔が見れたな…なんて、思いつつ。
このときの私はまだ知らなかった。
―まさか、あんなことになるなんて。


少しの変化


それでも、私はすごく嬉しかった。
それもこれも…苗字さんのお陰だ。
私はそう思いつつ、広間へと足を踏み入れた―






/
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -