君の笑顔に囚われて
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部活終わり。一緒に帰っていた平助らと別れたあと、私は1人で家まで歩いていた。
「今日も疲れたなぁ」
私は剣道部に所属している。だが女子は私ひとりしかおらず、男子だけの中で活動していると結構疲れる。
だけど、楽しい。疲れても何があっても、あのメンバーとなら全てが楽しくなる。
そんなこんなで気分好調の私は、気付いてなかったのだ。私を追う、黒い影がついてきていることを。

異変に気付いたのは、人通りの少ない道に入ったときだった。後ろから、足音がする。けれど、振り返っても誰もいない。気のせいかと思ったが、確かに音がする。私が早足になると、後ろの足音も早くなる。
段々と近づいてきている気がする。家はまだ先だ。どこかに入ろうにも、コンビニも店も無い。
さて、どうするか。意外と冷静な頭で私は考える。走るか、それとも誰かに電話でもするか。そんなことを考えていると―
「待ちなぁ、お嬢ちゃん」
―影は、私の真後ろまで来ていた。
「……っ、」
「おっと、大声は出すんじゃねえぞ」
声を出そうとするが、口をふさがれる。
「お嬢ちゃんのこと前から可愛いなあって思ってたんだよ」
男の荒い鼻息が顔にかかって気持ち悪い。
「なあ、いいだろぉ?」
するりとお尻を撫でられる。そこで、私の堪忍袋の緒が切れた。
―ああ、もう耐えられない。

「はい、そこまででーす」
「めええぇぇん!!」

2人が声を出したのは同時だった。
「うぐぁっ…!?」
私の振った竹刀は見事に男の横腹に当たり、男はドサリと地面に落ちる。そして、動かなくなる。
「危ないところだった……さて、こいつどうしよう」
とりあえず警察か、と私が携帯を出そうとしたときだった。
「ふっ…ははっ、ちょっと、きみ?」
後ろから声をかけられ、ビクリとしながら振り返ると、そこには―茶髪で長身のイケメンがいた。
「ま、まさかあなたも変態ですか…!?」
「あはははは!違うよ、僕は警察だよ!」
こんなチャラチャラした人が?、と私は怪訝な目で見る。
「何その目、疑ってるの?」
そうしてイケメンが私の目の前に出したのは警察手帳。沖田総司、と書かれている。それに、よく見たら制服も着ているではないか。暗いから分からなかったが。
「あ、本当の警察さんですね。じゃあこの男のことよろしくお願いします。では私はこれで―」
そうして私は家の方に歩き出そうとした、が。
「タダで帰すわけないでしょ?」
彼―沖田さんに首根っこを掴まれ、そのまま警察署まで連れていかれるはめになった。


そうして私は事情聴取をされることになった。警察の人には正当防衛だけど竹刀はちょっと危ないからね、と注意された。
それも終わり、親が迎えに来るのを待っていると、先ほどの警察官、沖田さんがやってきた。
「キミのご両親、もう少しで来るらしいから」
「どうも」
沖田さんはニヤニヤと笑っている。
「君、強いね」
「私、剣道部なんで」
「だろうね。僕も高校時代剣道部だったんだ。君、薄桜高校でしょ?」
「そうですけど」
「僕もそこ出身」
「え、ほんとですか!?」
先輩じゃないか。しかもこのくらいの年で、薄桜の剣道部ってことは……
「先生に斎藤一っているでしょ?僕の同級生」
やっぱり。剣道部顧問の斎藤先生と知り合いなんだ。
「斎藤先生、すごい剣道上手いですよね」
「そうだね、その時は僕と一くんが1番を争ってたからね」
ということは、この人もものすごく強いんだ。すごい、斎藤先生と争うなんて……

「それにしても、君すごいよね」
沖田さんがまたニヤニヤと言うので、思わず眉を寄せる。
「普通変質者に遭った女の子ってすごい震えてたり怖がってたりするのにさ、君は強過ぎ!」
沖田さんはたまらず大きな声で笑った。
「警察のくせにそんなに笑っていいんですか?」
「ゴメンって。でも僕、今君と戦ったら負けちゃいそうだな」
「はい、私勝ちますよ」
「すごい自信……!」
ヒィヒィと息絶え絶えに笑っていた沖田さんは、目じりの涙を拭うと私を見る。
「君、ほんと面白いね。気に入った」
「それはどうも…?」
「名前、苗字名前だよね。名前ちゃんって呼んでいい?」
「えぇ……」
まさかただの女子高生の自分が、今日あったばかりの年上で警察で超チャラいイケメンにちゃん付けで呼ばれるなんて。世界は面白いものだ。
「苗字さん、ご両親来ましたよ」
他の警察官に声をかけられ、私は立ち上がる。そして沖田さんを振り返る。
「では沖田さん、ありがとうございました」
「あれ、名前言ったっけ?」
「警察手帳に書いてありましたよ」
「あ、そっか。てかありがとうって言っても僕助けてないし」
「いえ、でも―」
少し躊躇うけど、私は少し微笑んで沖田さんに言う。
「私、実はあの時後ろに警察の方がいたって分かって、すごく安心したんです」
そう言うと、私はペコリとお辞儀をして署を後にした。


そして、残された沖田はというと―
「何、あの子…面白いし、あの笑顔は反則でしょ」
またニヤリと笑って彼女を見送る。自分の顔が赤くなっていることは、気付いていなかった。


君の笑顔に囚われて


これが恋の始まりだなんて、まだ誰も気付いていない。



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