すれ違って想い届く ----------------------------------------------------------------------------- そして私は土方さんからたくさんのことを教えられた。 羅刹のこと、おち水のこと、本当は死んでいなかった平助のこと― いきなりの出来事に、私の頭は大変なことになっていた。 「名前ちゃん、今日はそろそろ寝な? もう疲れたでしょ」 沖田さんが心配して声をかけてくれる。 「いえ…」 「だめ、疲れた顔してるよ。もう寝な」 「…はい…」 沖田さんの言葉に甘え、私は1人部屋に戻ることにした。 ―しかし。 「寝れない…」 こんなときに寝れるわけなかった。 「はあ…」 私に頭の中は平助のことでいっぱいだった。 …平助、生きてたんだ。 人間ではなく、羅刹になってしまったけど… 「…っ、」 私は、平助が生きていてくれたことだけですごく嬉しい。 「よか、った…」 だけど人間とは欲が出てしまうものである。 ―会いたい。 そう思ってしまうのだ。 「明るい…」 満月って、こんなに明るかったんだ。 「ふー…」 私は縁側に座ると、満月を見上げる。 「へいすけ…」 「…何だよ?」 ―え? カサッと音がし、前を見ると、 「…よっ。 久しぶりだな」 ぎこちなく笑っている平助がいた。 「…へいす、…っ!」 涙が溢れてくる。 「うおっ、泣くなよ!」 「だ、だって、平助、死んじゃったと思って…」 「あー…ごめん」 平助は本当にすまなそうに言う。 「…馬鹿平助」 「しょうがねえだろ!? 言えなかったんだから!」 「それは、分かる、けど、」 やっぱり、平助が死んじゃったのは嫌なんだよ… 「…名前、」 「私、私、平助のことがー」 言いかけると、 「…名前…」 平助は私を抱きしめた。 「へい、」 「俺、見ちゃったんだ」 「へ…?」 「名前が俺の名前呼んで泣いてたとこ」 …えっ。 「だからさ…俺も、言わせてくれよ」 平助は抱きしめる力を強める。 「俺はお前が好きだ。 俺は羅刹だし、血に狂っちまうこともあるかもしれないけど、日の下を一緒に歩くこともできないけど、」 そこで平助は私を引き離し、真っ直ぐと目を見る。 「それでも、お前と一緒にいたい。 短い間でも、お前と一緒に…」 目元が月の光で輝いている。 ―平助は、泣いていた。 「…平助…私も、平助とずっと一緒にいたいよ」 2人で笑い、そして私たちはくちづけを交わした― すれちがった想いは、今、君に届いた。 ―ずっと、一緒にいよう。 ← → Back |