私たちの担任は永倉先生だ。
しかし、今日学活の時間、教卓の前にいるのは―
「今日は進路についてだ」
どこの担任も持っていない土方先生だ。
…えっ、なんで!?
私(てゆうかみんな)が思っていると、総司が口を開いた。
「なんで土方さんがいるんですかー、帰って下さいー」
…うわあ、正直。
「総司…新八が風邪で休みだからだ」
「あっそうですか」
「………」
土方先生は、総司を見て居づらそうな顔をしている。
(そういえばここは総司と斎藤のクラスだったか…)
何か呟いていたがそれはものすごく小声で、誰にも届かなかった。

「…で、進路だ」
しかしその表情をまたいつものように戻し、先生は説明を始めた。
(進路、かあ…)
私の進路は決まっている―というか、もうあと1ヶ月で他国に渡るのだ。
それは永倉先生と校長先生あたりにしか言ってなくて、多分土方先生は知らないと思う。
「これに書いてけー」
そう言って先生は紙を配るけど、私にはそれも必要がない。
…まあとりあえず貰っておくか。
みんながカリカリと進路を記入する中、私はずっと考え事をしていた。
あと1ヶ月で、総司と、一くんと―土方先生と、会えなくなるんだ。
そう思うと、寂しいかも…
でも、行くと決めたのは私だ。
寂しいけど、覚悟を決めなきゃ。
そんなことを思っているとチャイムが鳴り、名前しか書いていない紙を後ろの女子が集めて行った。

そして放課後、私は部活前の総司と一くんと喋っていた。
主に進路について。
「僕はとりあえず適当に大学かな」
「俺は教師を目指したいと思っている」
「あ、やっぱり一くんはちゃんと考えてるね」
「何? 僕が考えてないって言いたいの?」
「だって適当って……ごめんなさい嘘です」
―こんな会話も、もう出来なくなるんだ。
「…名前?」
「どうした?」
2人が声をかけてきて、私はハッとする。
「ご、ごめん…決めたのは私なのにね」
「「………」」
ああ、なんだか微妙な空気になってしまった。
どうしよう、と私が考えていたとき。
『2年2組の苗字 名前、職員室まで来い』
という放送が流れた。

「今の声、土方さんだよね?」
「ああ…何かしたのか?」
「ええ!? 何かしたっけ…」
…あ。
「もしかして…」
「何かこころあたりがあるのか?」
「いや…進路の紙白紙で出したから、かも」
「「…絶対それだ(ね)」」
ああ、憂鬱。
「…行ってくる」
だって、「なんで白紙で出した」なんて聞かれたら…絶対、言わなきゃならないから。
「行ってらっしゃい」
「…頑張ってこい」
ありがとう、2人とも。
私はそう言って教室を出て、職員室に向かった。

「失礼します…」
「おう、入れ」
…やっぱり。
土方先生は、進路の紙を持って待っていた。
「…なんで呼ばれたか分かったよな?」
「来る前から薄々気づいてましたが…やっぱり、ですか」
「ああ、白紙で出したのはお前だけだ…いくら適当とはいえ総司も書いてたからな」
ふう、と先生は息を吐く。
「お前、進路どうするんだ?」
「大学に…行きます」
「どこのだ?」
どこのだ、って、それは…
私は両手をギュッと握りしめ、言った。
「フランスの、ですよ…」
ああ、言ってしまった。
なんかいつも、誰かに言うたび、別れが近づいてく感じがする。
総司に言ったときも、一くんに言ったときも…
「もうすぐ私はいなくなる」って思う。

「フランス…だと?」
「はい」
「留学するのか?」
「留学、っていうか…両親の、転勤で」
「…そうか」
……………………
また、なんとも言えない空気になってしまった。
「土方先生」
「なんだ」
「残り1ヶ月、よろしくお願いします」
私がニコリとぎこちなく微笑みながら言うと。
「…ああ」
土方先生も少し微笑んだ。

残り1ヶ月―
せっかくだから、思いっきり楽しもう!





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