「…おい新八、どういうことだ」
「い、いや、その、だな…」
俺たちは今、ある店にいる。
俺と新八と左之と―3人の女。
「これは…合コン、か?」
左之が言う。
「…は?」
合コン?
「…どういうことだっつってんだろ、新八」
「すまねえ土方さん! お願いだ!」
「…無理だ、俺は帰る」
「土方さああああん!」
泣き真似をする新八と、「しょうがねえな」という顔をしている左之をおいて店を出る。
…合コンなんて、やってられっかよ。

しかし店を出るも、することがない。
本屋でも行こうかと、足を踏み出したそのとき―
「やめてください!」
という、女の声が聞こえた。
声のする方を見ると、男が3人、女を囲んでいた。
「暇なんだろ? いーじゃん」
「いや、あの暇では…」
「俺たちと一緒にどっか行こうよ」
「奢るよ?」
性質の悪いナンパか…めんどくせえな。
俺は、そう思いつつ―
「俺の連れだ」
彼女の前に出ていた。

「なんだ? こいつ!」
「いいじゃねえかよ!」
「ああ?」
ギロリと睨めば男たちはビクッとなる。
「…おい、行こうぜ」
「…覚えてろよ!」
そうして男たちは去って行った。
「覚えてろって…古くねえか?」
俺が呆れつつそう呟くと、後ろの女がクスッと笑う。
「おい、何笑って―」
振り向くと、顔があう。
「…土方先生!?」
「苗字…?」
―彼女は、俺の勤める薄桜学園の生徒だった。

「土方先生だったんですか、ありがとうございます」
「ああ、いや…」
顔なんか見てなかったから、苗字だったなんて全然分からなかった。
多分、苗字もそうなのだろう。
「あの、先生…あそこのカフェに入りませんか?」
苗字は、すぐそこにある店を指した。
「御礼、します」
ニコリと笑う苗字に断ることもできず、俺はカフェに行くことにした。

「先生、何頼みます?」
「何にするかな…コーヒーでいいか」
「分かりました」
苗字が呼び鈴を押し、少しして店員が来る。
「ホットコーヒとミルクティーとショートケーキとチョコケーキで」
店員が「かしこまりました」と言って去る。
「苗字、ケーキ2つも食べるのか?」
「失礼ですね! 先生のですよ!」
「は? 俺の? 俺コーヒーしか言ってねえだろ」
「いいんです! 御礼なんですから!」
どうやら苗字も引く気はないらしい。
「分かった、けど甘くて食えなかったらお前食えよ」
「分かりました!」
そんな会話をしていると、店員が頼んだものを持ってきた。
「…美味いな」
チョコケーキを食べてみるもあまり甘くなく、甘いものが好きじゃない俺も美味しいと思った。
「でしょ? ここのケーキ美味しいんですよ!」
苗字はニコリと笑いながら自分のショートケーキを食べる。
そこから他愛もない話をしつつ、食べ終わったあとに店を出た。

「先生、今日はありがとうございました!」
「いや、こちらこそありがとうな」
「いえいえ…結局、お金も払ってもらっちゃいましたし」
「生徒に奢らせるわけにはいかないだろ?」
「先生、かっこいいですね」
苗字はまた何度目か分からない笑顔を見せた。
「じゃあ、また学校で!」
「…ああ、またな」
苗字は最後までニコニコしながら歩いて行った。

『学校で』
何故かその言葉が、俺の胸に重くのしかかった。
―理由は、分からないまま。





one - next

back



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -