1ヶ月なんてあっという間だった。
「名前ちゃん…私たちのこと忘れないでね」
「名前、またな!」
「ばいばい、名前」
「また会おう」
私は今日の夜―旅立ちます。

「千鶴、平助、総司、一くん…ありがとう」
今は昼休みで、4人は私のために集まってくれた。
そして千鶴からはプレゼントと、3人からはハンバーグ定食とジュースをおごりでいただいた。
「名前ちゃん…もう夜には行っちゃうんだよね…?」
千鶴が悲しそうな顔で私を見上げてきた。
「うん、ごめんね千鶴」
「…寂しい…」
「遠く離れても私の親友は千鶴だけだから! 時々になっちゃうけど、メールとか手紙とか送るね」
私が言うと、涙目になっていた千鶴は顔を輝かせた。
「うん! 名前ちゃん、大好き!」
「私も大好きだよ、千鶴」
私と千鶴はぎゅっと抱き合った。
大好きな親友の、千鶴。
そんな千鶴とも、もうお別れ―

「つうか俺らは何食う?」
「僕は平助のおごりでうどん」
「俺はカレーで頼む」
「はあ!? 俺のおごり!? 一くんまで!!」
この3人の馬鹿な会話を見るのも、今日で最後。
「…名前ちゃん?」
「え、ああ、なんでも、ない」
「うどんだって言ったのになんでそば買ってくるのさ」
「…間違ったんだよ!」
「俺もこれはハヤシライスではないか」
「見た目的に同じだからいいだろ!」
「いいわけないでしょ」 「いいわけないだろ」
「つうか金払えーっ!」

今日で最後―
明日から私は、4人とは別の道を歩くんだ。
明日からは、4人と一緒にいられないんだ―

そして全ての授業が終わり、放課後。
「お見送り行けなくてごめんね」
「ううん、全然平気」
また泣きそうになる千鶴と抱きしめあったあと、私は4人に別れを告げる。
「じゃあね、名前ちゃん!」
「またなー」
「ばいばい」
「日本に帰ってくるときは教えてくれ」
「うん!みんな、ありがとう。またね!」
今から部活の4人と別れ、私は教室で1人になった。
「ここの教室も…」
今日で最後なんだなあ。
…なんか私、今日最後ばっかりだ。
なんか1人になるとやっぱり寂しくて、私はぽつりと呟いた。
「…先生」
やっぱり、私は先生が気になっていた。
先生には、今日で最後だと言ってない。
何度も言おうと思ったが…言えなかった。
永倉先生には絶対誰にも言うなと言ってあるし、このまま言わなかったら―
明日、知るだけだろう。

…どうしても、伝えたい。
でも、自分の口からは言えない。
「…あ!」
手紙!
そうだそうだ、手紙書こう!
私はごそごそと鞄の中から紙を出し、ペンを握る。
しかし、何を書くか全然決まらない。
その代わり―
「…う」
やっぱり寂しくて、少し涙が出てきた。
ほんとは、先生ともっと喋りたかった。
先生と生徒の壁を越えて、付き合って。
少しだけでもいいから、一緒にいたかった。
だけど私は、今日で日本を発つから。
その願いは叶わない。
「…これでいいや」
私は一言書くと、荷物を持って教室を出た。
そしてもう先生たちも少ない職員室に入り、その紙を土方先生の机に置いた。
Au revoir―



「あー…やっと部活終わったな」
「そうだなー」
「さて、そろそろ…って、ん? なんだこれ」
「どうしたんだ、土方さん」
「机の上に紙が…Au revoir? なんだそれ」
「ああ、確かフランス語だったような…」
「フランス…まさか…おい左之、意味はなんだ?」
「確か…「さようなら」とかじゃなかったか?」
「……っ!」
「お、おい土方さん! どこ行くんだよ!」
「悪い、今日は帰る!」
「はあ!?」
まさかあいつ、今日―


「…ふう」
私は今、空港のロビーにいる。
もう飛行機には乗ってもいいんだけど、なんとなくまだ乗りたくなかった。
だから時間になったら行くという約束で、両親は先に乗った。
なんで、まだ乗らないと言ったんだろう。
……先生に置いてきた手紙を気になっているから?
でもフランス語だし先生は古典だし、分かんないよね。
「なんだこれ」って、捨てられるかも。
「…そう、だよね…」
自分でそう言っておきながら、本当は期待していたかもしれない。
先生はきっと気付いてくれると。
「…もう行こ」
全てを諦めて、飛行機に乗ろうと立ち上がったとき―

「苗字!」
私がずっと待っていた人の声がした。
「土方…せんせい…?」
私がびっくりして呟くと、先生は―
「…お前は馬鹿か」
その言葉とは裏腹に、私を抱きしめた。
「せん、せい」
「なんで何も言わないで行くんだよ…「さようなら」って何だよ」
「それ、は…」
顔をゆがめた土方先生の口から出たのは―

「俺は…お前が好きだ、苗字」

思いもよらない、ありえない言葉だった。
好き?
土方先生が、私を?
「…嘘だ」
「お前なあ…嘘じゃねえよ」
「だって、だって、」
先生が私を好きなんて、ありえない。
そんなの、夢の中の話でしょ?
「…嘘でも夢でもねえよ」
土方先生は、私を抱きしめる力を強めた。

「俺はお前が好きだ」

ああ、本当なんだ。
この人は、本当に私を―
「……私も好きです、先生…」
私は溢れた涙をぬぐいながら言った。
「私が20歳になるまで…待っててくれますか?」
すると先生は、ニヤリと笑う。
「…無理かもな」
「え!」
「だからお前―電話とかメールとか、よこせよ」
「…番号とメアドは?」
「ああ、言ってなかったっけか…」
「ってあああ!! 時間! やばい!」
「は!? じゃあお前番号とメアドだけメモっとけ!」
「分かりました!」
あわただしく番号とメアドをメモすると、本当に時間はギリギリだった。

そして私は飛行機に向かう道の前で立ち止まり、土方先生を見た。
「…じゃあさようなら、先生」
「さよならじゃねえだろ」
「…またね!」
「ああ、またな…名前」

そうして私は―
フランスへと発った。
みんなとはもう当分会えないけど。
それでも―待ってくれている人がいるから。
私は3年間、フランスで頑張れる。
大好きです、先生―





prev - next

back



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -