「…ん?」
…うわっ!
私はすぐさま飛び起きた。
どうして…もう真っ暗じゃない!

『名前ー』
『…何?』
『うわ、機嫌悪い! 名前って眠いときめっちゃ機嫌悪いよね』
『眠いのぉー…寝るのぉ…』
『勉強は? 一くん呆れて帰っちゃったよ?』
『知らな…い………』
『あーあ、寝ちゃった』

教室で勉強してて…そのまま寝ちゃったの!?
総司は!? 総司も一緒に勉強してたはず!
すると、机の上に紙が1枚あり、『先に帰るね』と総司の字で書いてあった。
…起こしてよ…!!!

「はあ…ほんと真っ暗じゃん…」
私の家は近くも遠くもないが、電車とバスを乗り継がなければいけない。
この時間だと…帰宅ラッシュでたいへんなことになるだろう。
「…なんで寝ちゃったのよ、私!」
うう…憂鬱。
しょうがない、覚悟を決めよう。
下駄箱で靴を履き、学校を出ようと一歩踏み出したとき。
「………苗字?」
後ろから声がかかる。
あれ、この声って―
「土方先生…?」
やっぱり、土方先生だ。

「どうしたんだ? こんな遅くまで…」
「え、っと、ね、ちゃっ…って」
「ちゃんと喋れよ」
だって「寝ちゃってた」なんて怒られそうだし! 恥ずかしいし!
はっきり言わない私に、土方先生は眉を寄せる。
しかし、次に飛んできたのは思いもよらない言葉だった。
「…送ってってやるよ」

…というわけで。
今私は、土方先生の車の中にいます。
…なにゆえこうなった。
チラッと隣りを見ると、土方先生が運転している…あたりまえだけど。
「…なんだ」
「い、いえ」
パチリと一瞬目があい、私はすぐに逸らした。
ただ遅かったから送ってもらってるだけなのに…なんでこんなにドキドキするんだろうか。

「…そういえば、なんだが」
無言が続いていた中、先生が口を開いた。
「お前の家、どこだ…?」
……………えっ?
「知ってるんじゃないんですか…?」
「知らねえよ」
「ええ!? てっきり知ってるのかと!」
「知ってるわけねえだろ!」
冷静に考えればそうか、知らないか…
…………ん?
「先生」
「なんだ」
「……私の家、逆方向なんですけど」
「…先に言え」
そうしてUターンをして、私の誘導で家に向かった。

数十分後、私の家が見えてきた。
「奇跡だ!」
「どういう意味だ!」
「まさか土方先生が方向音痴だったなんてびっくりです!」
「うるせえ!」
まさか左と言っているのに右に曲がるとは。 さすがにびっくりした。
「ったく…ちゃんと左なら左って言えよな…」
「言いましたけど」
…あ、先生少し顔赤い。
「…悪かったな、普通に帰るより時間かかったな」
「いえ、楽しかったですから」
「楽しかった?」
「土方先生の新しい一面が見れて」
「…お前なあ…」
そう言うけど、土方先生も笑っていた。
「じゃあな」
「はい! ありがとうございました!」
「ん」
バタン、というドアの音がして、土方先生は帰っていた。

そして、私は家の前にしゃがみこんだ。
…あと、1ヶ月。
それしかないのに。
「…先生の、馬鹿」
やっぱり私は―あなたを好きになってしまったみたいです。




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