「土方せんぱーい、ただいまお昼から帰りましたー!って、うわっ!皆さんなにしてんですか?!」
「あ、名前。おかえりー」
「おまえも加われ!いま始めたばっかだぞ!」
私が焼肉でお腹を満たせたおかげで上機嫌になって研究室に戻ると、そこでとんでもない光景を見てしまった。
何がとんでもないって、今の私にはただ『とんでもない』としか言い表せられない。
研究室の中心にジュージューという音とともに立ち込める蒸気。
その蒸気の周りを囲む、院生の土方先輩、原田先輩。
それから同じ4年の総司と一君と平助。
なんと、だ!!
この人達、研究室にホットプレート持ち込んで焼肉してたんですよ!!
「な、な、なんで研究室内で焼肉やってんですか?!」
「なんでと言われても…これが俺たちの昼食だからなのだが?」
「いやいや一君。論点ちょっとずれてるから!」
「つべこべ言ってねーでおまえも加われ。手伝いはその後だ。俺はいま腹が減ってんだよ」
「そ、そんな土方先輩まで!」
「ほら、みずきこっち!俺の隣来いよ!ホルモン丁度焼けてるぜ?おまえ肉好きだって言ってたじゃん!!」
「いや、確かに好きだけど!間が悪すぎなんだよ、平助」
「ほら、いつまでそんな入り口で突っ立てるの?早くこっちに来なよ」
「ひゃ!総司、押さないで!」
私の反論や動揺はこの人達の異様なテンションによって飲み込まれてしまった。
やっぱり焼肉を目の前にすると男も女も関係なくテンションが高揚するらしい。
私も研究室で焼肉をするのが今日じゃなかったら…
きっとこの中の誰よりも喜んでいたと思う!!
だけどだけど、今日だけは本当にタイミングが悪いんだ!!
だって、さっき千鶴と千と思い切り焼肉食べ放題を堪能してきたばかりなんだもの!!
「そんじゃ、さすがにこんな時間から酒は駄目だと土方さんが言ったからドリンクしかねーけど!」
「「かんぱーい!!!!」」
総司にプレートの前まで強引に連れてこられた私。
そこで土方先輩にオレンジジュースが入ったプラスティックのコップを渡されて、原田先輩が音頭を取り。
皆が一斉にプレートへ箸やトングをのばした。
私は苦笑いしながらも何も言えなくて、とりあえず椅子に腰を掛ける。
大丈夫。何も食べなければいいだけ。
ただ座ってるだけでいいんだ。
だけど、私のこの考えはすごく甘かったんだってことを実感させられる。
「ほらっ、名前の好きなホルモン!あーん!」
「ふがっ!あーんじゃない、それあーんじゃないよ総司!無理やり押し込められてるから!」
「あ、総司いーな!ほら、これも食えよ!あーん!」
「んごっ!平助もそれあーんじゃない!私、口開けてないから!」
「ちょっと平助。名前にあーんしてもいいのは彼氏の僕の特権だから」
「別にいいじゃん!名前の食ってるとこってハムスターみたいで見てて飽きねーんだよな!」
「(もごもご……ごくん)私そんなにいっぱい口に詰め込まないから!」
両サイドに座っている総司と平助に無理やり口にホルモンを詰め込まれ。
泣きそうになりながらも租借する私。
この二人に挟まれたのが一番最悪なポジションだったんだってことにいま気がついた。
「肉ばかり食べていても駄目だ。野菜も食え」
「ちょ、そんなに乗せられても食べられないよ一君」
「たまねぎは嫌いか…?」
「…食べる」
一君、きっともてなしてくれてるんだと思うけど…いまの私のお腹はたまねぎさえ入れる隙間がないんだよ。
それがたとえ一君が焼いてくれたたまねぎでもね!
だけどだけど…そんなに可愛く悲しんだような顔されたらもうね!食べるしかないじゃない。
「おまえが焼肉好きだってこないだ言ってたの聞いて皆で計画してたんたぜ。今日はたんと食えよ、な?」
「…うっ…そうだったんですか?」
「おまえが『焼肉にはビールよりも米』とか言ってたから、白飯も買っておいたぞ」
「げっ…これ何グラムあるんですか」
原田先輩と土方先輩もそう言って、私に肉やらご飯やらをどんどん寄越してくる。
皆、私のために焼肉計画してくれたんだ…なんてちょっとうるうるしてしまったけど。
ごめんなさい、やっぱ無理です!!
本当にこんなに食べられない!!
だからこれ以上皿に肉やら野菜やら盛らないでください!!
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やっぱりもう駄目だ…
私は始まって10分も経っていないうちにそう思った。
部屋中に充満するこってりとした焼肉独特のにおい。
口の中にいまだに残るお肉のギトギトとした脂。
駄目かも、吐いちゃいそうかも…
「どうした?まだ全然食ってねーのに箸止まってるぜ?」
「ほら、もう一回あーんする?」
「…もう、駄目。今日はもうこれ以上無理です…。このにおいと…口の中に残る脂……うっ……吐きそう!!」
私は原田先輩と総司に途切れ途切れそう返しながらも、もう限界だった。
吐きます、そう言い残してガタッと立ち上がり、慌てて研究室を飛び出してお手洗いへ向かった。
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