**沖田総司**






ヴーヴーヴー





学校から帰って来て、相変わらず何もする気にはなれずに、自室のベッドに横たわっていた僕。

テレビもつけないし、音楽も聴かない。そんな静かな部屋に鳴り響く、携帯電話のバイブの音。







着信:苗字 名前







名前から電話?



どうしよう、出たくないなぁ。


出ないでおこうかな。





そんな考えが頭をよぎるんだけど。



でもやっぱり、名前は僕の大好きな人だから。


無視するなんて選択、初めからできるはずもないわけで。






ピッ






「もしもし?」

『…総司?今、家?』

「そうだよ」

『そっか。今からちょっと行ってもいい?』

「いいけど、なんで?」

『話したいことがあるから…。じゃあ今から行くね』

「あ、ちょっと名前!!」




ツーツーツー





僕が声を掛ける暇もないくらいに、早口で名前はそう言って電話を切ってしまった。

今日の名前はなんだか強引だ。





まるで、僕に何かを考える時間を与えないようにしているみたいに。








ぴーんぽーん






あれから3分もしないうちに、家のインターホンが鳴る。

そうだった、家、近いんだった。

最近、名前と全然話さないから、幼なじみだってこと忘れてた。






「どうぞ、入って」

「うん…」





僕は自室を出て玄関に向かい、玄関の外の人物が誰かを確かめずにドアを開く。

そうすれば、疑うまでも無く、そこには僕の大好きな人がいたわけで。






「何か飲む?って言ってもココアしかないや」

「…いらない。それより、大事な話があるの」





名前を僕の部屋に連れて行ってから、とりあえず何か飲むかと聞いてみれば、首を横に振っていらないって言う名前。

そんなに真剣な表情をされると、これから何を言われるのかって、ちょっと構えてしまうじゃない。





だけど、名前がこんなに真剣な表情をしているってことは、本当にすごく大事な話なんだよね?





だから僕は、キッチンに行こうとした足を止めてその場に座り、名前の次の言葉を待つことにした。









「斎藤君と、別れたよ…」

「は?一君と別れた?なんで!」





僕が腰を下ろすと同時に口を開いた名前の口から出た言葉。

それは、彼氏である一君と別れた…なんていう、喜んでいいのかどうなのかよく分からない言葉だった。





いや、僕としては嬉しいんだけど。

名前は僕よりも一君が好きだから、あの日僕を振ったんだよね?



だとしたら、名前は好きな人に振られてしまったということなんだと思ったんだけど…





どうやらそうじゃなかったみたいで






「一君がね、私の幸せを願ってくれたから、別れることになったんだよ」

「ごめん、ちょっとよく分からない」




名前の幸せ?だってそれって一君と一緒にいることなんじゃないの?






「私ね、気付いちゃったんだ。総司のことが好きだったんだってこと」

「…え、今、なんて?」

「私、総司のことが好きみたいなの」






僕は自分の耳を疑ってしまった。

だって、あの日振られてから、きっともう僕は名前の傍にいられることはないんだろうって…

そう思ってて…半ばもう諦めてしまってて…





その名前が、今、僕のことを好きって?






「一君には気付かれてたみたいなの。最低だよね…自分で一君選んでおいて、一君のこと傷つけてさ…。でも、これ以上一君のこと傷つけないためにも、自分に素直になろうって…」

「……」

「こんな私だけど、一君を傷つけてしまった馬鹿な私だけど……それでもよかったら私と付き合って、総司……」








「夢…みたい…」









「え?」










「夢みたいだよ。名前が僕を選んでくれたなんて」

「え?!きゃあっ!!」








僕は、名前の言葉が現実なんだって認識して行くと同時に、あまりの嬉しさから名前に勢いよく抱きついていた。







だって、だって…!!







嬉しいんだよ、本当に嬉しいんだよ!!







ずっとずっと大好きだった名前が、僕を選んでくれた!!









「名前、大好き。本当に、何にも変えられないくらいに名前のこと愛してるんだ。だから、絶対に、一生…名前のこと幸せにするって約束するから…!!!」

「お、大袈裟じゃないの?」

「大袈裟なわけない!本当に嬉しい!!あぁ、どうしよう。僕、これから事故に遭って死んじゃうとかないよね?!」

「そ、それは、私が困るから止めて欲しいよ」

「うん、じゃあ事故らないように気を付けるね!!」

「う、うん…」






名前は僕のテンションに圧倒されていたけど、それでも優しく笑っていてくれた。

僕も、自分のこのテンションがちょっと気持ち悪いなとは思ったんだけど。

けど、どうしてもこの気持ちを抑えることはできない。








けど、そんな中でも


これから、きっと…もっともっと名前のことを好きになっていくんだろうなってことを感じながら、腕の中にある小さなぬくもりを守って行こうって。

僕はそう強く心に誓っていたんだ。


















「名前、大好きだよ」

「……私もだよ。これからよろしくね」
















fin.



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