朝起きるとなんだか熱くて、起きるのが億劫になるほど体がだるかった。
もう7時になるころになると、さすがにおかしいと思ったのか同室の弁財がドアをノックし、部屋に入ってきた。

「おい、秋山いつまで寝てるんだ?そろそろ起きないと間に合わないぞ。」

その言葉に体を起こした。これだけでひどく疲れを感じた。

「ああ、悪い。すぐ起きる。」

それだけ言って秋山は出勤の準備を始めた。

「おまえ顔色悪くないか。大丈夫か?」

体調が悪いことをさすがに長年一緒にいる弁財には隠し通せそうにはないようだった。
おとなしく熱を測ると37度2分だった。
見てわかるほどに弁財が心配そうな顔をした。

「このくらいの熱だったらすぐ下がるから平気だよ。こんな微熱で休んだら伏見さんに申し訳ないしね。」

「…無理はするなよ。」

押し切れないことを悟ったのか弁財はおとなしく部屋に戻っていった。
秋山も出勤の準備を始めた。






午後を過ぎると熱が上がったのか、体のだるさが増してきて、仕事にも集中ができないほどになっていた。
隣に座ってる弁財が心配そうに見てくるので、区切りがいいところまですると伝えて続きの仕事をした。
やっとの思いで書類を仕上げ、伏見さんに提出に行った。
秋山から書類を受け取ると、伏見はものすごい速さで書類に目を通した。
一通り目を通した伏見は眉間にしわをよせた。

「…秋山にしては珍しいな。ミスが多いぞ。」

「すいません。少し体調が悪くて。」

秋山が申し訳なさそうに言うと、伏見は小さく舌打ちをした。
そしてひとつ溜息を吐いた。

「秋山おまえ今日は帰れ。その調子だとこの程度の書類すらまともに仕上げられないんだろう。中途半端な仕事されると俺の仕事が増えるんだよ。」

「ですが、今日の俺の分の仕事はまだ終わってないんですけど。」

「やっとくから早く帰れ。」

そういうと、秋山から目線をはずし伏見はパソコンに向き合った。
もう秋山の話を聞く気はないようだ。
秋山はひどく申し訳なさそうすいませんとつげ、帰りの支度を始めた。
そして帰り際に伏見にもう一度謝罪をつげ、帰路へついた。




部屋につくと一気に気がぬけたようで、へたりと玄関に座り込んでしまった。
しばらく休んでなんとか部屋につくと朝使った体温計が見えたのでとりあえず熱を測った。
画面を見ると38度を超えていて、自分はこんなに体調が悪かったのかとため息を吐いた。
上着だけ脱いでベッドに横になるともう起き上がるのもつらかったので、あとで着替えようと思いそのまま眠りについた。




ふと目が覚め、周りを見回すと外が暗くなっていた。。
寝る前よりも体のだるさが抜けていたので、そのまま部屋着に着替えベッドに戻った。
すると、ガチャっとドアが開く音が聞こえた。弁財が仕事を終え帰ってきたのだろう。

「悪い。起こしたか?」

「いや。さっき起きたところだから大丈夫。」

「体調はどうだ?」

「帰ってきたときはだいぶ上がってたけど、今はそんなに悪くないよ。」

「水を持ってくるからその間にもう一回測っておけ。」

そう言って弁財が部屋から出て行った。
秋山は少し面倒だったがもう一度体温計を手にした。
熱はすっかり落ち着いて36度9分になっていた。
ほっとして肩の力が抜け、いまならもう一眠りできそうだと考えていたら、水を持った弁財が入ってきた。

「どうだった?」

「もうだいぶ下がってたよ。36度9分。」

「それならよかったな。伏見さんがひどく心配してらしたぞ。」

それを聞くと秋山はぽかーんとした顔をした。
だが、弁財はその様子を気にせず続けた。

「それに秋山の仕事は伏見さんが全部処理してくださってたしな。ずっとおまえの机をちらちら見てらしたぞ。」

と笑いながら言った。
秋山は仕事を全部させたと思うので困った顔をしつつ、伏見さんが自分を気にしてくださったことがうれしくてたまらずに笑って、というのを繰り返していた。
そんな秋山の様子を弁財はおもしろそうに見つめた。

「あの人はようやくおまえになついてきたよな。このまま特務隊にもなじんでくれるといいな。」

「ああ。伏見さんが楽しくすごせるような場所になるといいよな。」

そんな話をしてるとピンポーンとチャイムが鳴った。
こんな時間に誰が来たのか不思議に思いつつ、弁財は玄関に向かった。
弁財がドアを開けるとそこには少し戸惑った顔の年下上司が立っていた。
伏見の手にはコンビニの袋があって秋山の見舞いにきたようだった。

「こんばんは。秋山さんは大丈夫すか?」

「ええ。微熱程度に落ち着いたみたいです。今起きてるんで入ってください。」

「いや、別にこれ渡してくれるだけでいいです。」

「秋山が伏見さんに会いたがってましたよ。ぜひ会っていってください。」

なんだかんだで伏見は押しに弱いので、そのまま押していたらお邪魔しますと言って部屋に入ってきた。

「秋山、伏見さんが見舞いにきてくださったぞ。俺は部屋にいるからなんかあったら呼んでくれ。」

弁財がドアを少し開けて言った。部屋から伏見さんがと驚いた声を出す秋山をスルーしてどうぞと伏見を部屋に入れた。

「…どーも。」

「伏見さんわざわざすみません。今日仕事も全部してくださったと聞きました。」

「申し訳ないと思うなら熱とかださないでくださいよ。」

「すみません。」

「これ。見舞いとかあんまこないんで何買えばいいかよくわかんなかったんですけど。」

そう言い、伏見はコンビニの袋を差し出した。
中には熱冷ましシートやゼリーなどが入っていた。

「ありがとうございます。明日には治して仕事にも復帰します。」

「…アンタがいないと仕事はかどんないんでちゃんと治してきてください。」

伏見がぼそっとつげた。
顔を見ると少し赤くなっていて、これが本音だとわかり秋山は驚いた顔をした。

「アンタがいれるコーヒーに飲みなれちゃって他の人のはうまくないんですよ。早く治して俺にコーヒー入れてください。」

恥ずかしげに言う伏見を見ながら、まるで毎日お味噌汁入れてというのとニュアンスが似ているなと思いくすっと秋山は笑った。

「はい。明日からはちゃんと伏見さんのためにコーヒー毎日いれさせていただきますね。」

とひどく幸せそうに言いながら、秋山は伏見を抱き寄せた。
伏見は驚いたような顔をしたが、そのまま受け入れた。

「熱があるとひと肌恋しくなるもんなんですか。普通にしたらセクハラですよ。」

「そうかもしれませんね。それに伏見さんがかわいくて抱きしめたくなっちゃいました。」

「…ふざけるんですか。」

「いえ、本音ですよ。」

抱き寄せたままの伏見の髪をなでた。
伏見の髪はくせ毛だが、やわらかくとてもさわりごこちがよかった。
伏見は悪態をつきつつも、秋山のなすがままになってくれている。
しばらくこのまま会話を続けていたら、さすが時間が遅くなってきたので秋山は伏見を部屋に帰した。
伏見がこんなに素直になってくれるならたまに熱をだすのも悪くないなと思い、秋山はひとりで笑った。




翌日になると熱がすっかり下がった秋山がうれしそうに伏見にコーヒーを差し出す光景が見れた。



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題名の南天は花の名前です。
花言葉は「私の愛は増すばかり」


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