倒れた伏見とガラスで怪我をした秋山は病院に搬送された。
ストレインの確保などの事件の後始末が済んだころに手当と検査が終わり秋山は業務に戻った。
だが、伏見はなかなか目が覚めなかった。ガラスで切った以外の外傷は見られなく、頭を打った形跡もない。精神的な問題だろうと医者は判断をした。




伏見が倒れてから毎日伏見の病室に通っていた秋山は周りから見てもわかるほどにやつれていった。
無理もないだろう。秋山を助けるために伏見は隠していた能力を使ったのだから。人一倍責任感の強くて伏見のことを好きな秋山だから心配する気持ち、後悔する気持ちは膨れていくばかりだった。
見かねた弁財はそんな秋山を毎日病室に迎えに行き声をかけ続けた。




「ほら秋山今日はもう帰るぞ。」

「待って。あと少しだけいさせてくれ。」

「その言葉はさっきも聞いたぞ。おまえがそんな顔色だったら伏見さんは心配して甘えてくれないぞ。」

「うん。でもあとちょっとだけ。あと10分だけ。」

「…あと10分だからな。過ぎたら引きずってでも連れて帰るからな。」

「ありがとう。弁財。」

弁財の言葉が右から左へ流れていく。眠っている伏見さんを見ていると他のことが頭に入らない。
このやり取りはもう何回しただろうか。伏見さんをこんな風にしてしまったのも、弁財に迷惑をかけているのも俺だ。あのときのストレインの攻撃さえくらわなければ、何度思っても現状は変わらなかった。
伏見さんの能力は室長すら知らなかった。ずっと隠していたのはつらい思いをしてきたからなんだろう。
あのときの、震えながら身を守ろうとした姿が脳裏にはりついて離れない。目覚めたくないほどにひどいことをされたのかもしれない。それを思い出させたのは俺だ。
けど、今俺にできることなんてないし、ここにいたって、伏見さんについて考えていたってなんにもならないことくらいわかってはいた。
でもいたいんだ。
目覚めた伏見さんに俺は敵じゃないと、ここは大丈夫だと伝えることだけでもしたいんだ。あんな伏見さんはもう見たくない。それだけが頭を占めていた。

「秋山、時間だ。帰るぞ。」

「…ああ。わかった。伏見さんまた明日来ますね。おやすみなさい。」

「伏見さんおやすみなさい。」

帰りの挨拶も済ませ、部屋を出ようとしたときに伏見が少し動いたように見えた。驚いた秋山は伏見のもとへ駆けつけた。指がぴくっと確かに動いている。重そうに瞼が開こうとしている。伏見がついに目を覚ました。

「ふ、伏見さん!大丈夫ですか?どこか変なとこないですか?痛いところはありませんか?体はうごきますか?」

「おい。そんなに立て続けに聞くな。まだ目覚めたばかりだろうが。」

伏見が目覚めたことで混乱している秋山に声をかけながら弁財はナースコールを押した。
目覚めた伏見は周りを見回し秋山たちを見るとひどくおびえた。
ああ。この人は俺らのことすらわからないほどに人がこわいのか。それとも俺らがひどいことをすると思っているのか。
どっちかはわからなかったが、悲しいことには変わりはなかった。
茫然と伏見を見つめていると医者と看護婦が駆けつけてきた。
医者が2、3語りかけたが伏見はおびえているばかりだった。
異常がないか検査をするということで俺らは寮に帰ることになった。



部屋に戻った後も伏見さんのことばかりが頭の中をぐるぐるしていた。
ずっとあそこで目覚めを待っていたのになにもできなかった。
おびえてる姿を見ていると声をかけることもできなくて情けなかった。
明日、目が覚めた伏見さんに会いにいってなにができるだろう。
どうしたら伏見さんの傷を癒せるのだろう。


――――こんなに想っても何もできない。できないと思ってしまったら進むことがわからなかった。






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