「…とりあえず服、着てくれる?」
「…ない、」
深いため息をひとつして、僕は上着を彼女にかけた。
「下もあげるわけにはいかないんだ。それだけで我慢してくれ。丈は長いから下も隠れるだろ?」
こくりと頷く彼女の動作が伺えた。本当に困ったなぁ。任務で少女を拾ってくるなんて、カカシ先輩に絶対呆れられる。
「ねぇ、姫様の居場所知らないんだよね」
「………うん」
「そう、
とりあえず出るよ」
部屋から出ると、彼女もあとを追って出てきた。
鎖もなにもつけられていない。逃げ出そうと思えば、このアジトから逃げ出せたんじゃないのか?そんな考えが頭をよぎった。
「…ここから逃げようと思ったことはないのかい?」
「………ある」
「なら、なんで」
「着るものもない私なんかに、このアジトを出ていったって行く場所なんてない。…売られたときに、もう覚悟するしかなかった。私の居場所はここしかないんだ、て」
「なら…どうして僕に助けを求めたんだい。残念ながら連れ出したあと補助もするほど僕はお人好しじゃないよ」
頼まれる前に断っとこうと、僕は釘をさしておいた。
実際僕は…お人好しなのだろうが。
「彼女は、いる?」
「は?」
突拍子もない質問に僕は声を裏返らせた。
「…いきなりなんだい」
「それとも結婚してるの?」
「いいや…そういった女性は特に……」
そこまで言ったところで、僕はチャクラに反応した。
これはカカシ先輩のチャクラ。
ターゲットの発見か!
「君、1人でここから出られるかい?」
「え、あ、多分」
「ならアジトを抜けた先にある洞窟のふもとで待ち合わせだ。必ず行くから待っていてくれ」
僕はそう言い残すと先輩のもとへと走り出した。
こうなったらもうどうにでもなれ、だ。
***
「いやぁ、案外すんなり姫様を奪還できたねぇ。紅も噂ほど大した組織じゃないんじゃない?」
カカシ先輩のもとへ駆けつけたとき、もう先輩は姫様を担いでアジトを抜ける準備をしていた。
姫様は写真で見たよりも幼く、まだ子供だった。
任務が無事成功したのはよしとしよう。困ったのは、さっき拾った彼女だ。
「…あの、先輩」
「ん?」
「非常に言いにくいんですが…」
仕方がない。
呆れられるのを覚悟して僕は彼女のことを話した。
「人身売買…ねぇ」
「はい」
「ここは俺らの国でもないんだからさ、そういうのは放っといたほうがいーんじゃなかったの」
「…すいません」
やはり言われると思った。
だけど、助けてなんて言われたら、助ける他ないじゃないか。あんな、か細い声で。
「とりあえず彼女の待ってる洞窟にでも行きましょーかね」
「…はい」
「テンゾウはお人好しすぎるのよ。本当に同情してるなら殺してあげたほうが良かったんじゃない?」
カカシ先輩の言ってることは残酷にみえて正論だ。そんなことは、暗部である僕にはわかっている。わかっている、はずなんだが。
彼女の待つ洞窟に、辿り着いた。人影が、洞窟から出てくる。月明かりがその人を照らし出した。
綺麗な、女性だった。
まだ幼さを残す少女の顔をしていたが、長い黒髪に細長い手足が大人っぽさを醸し出していた。…買われたのも無理がない美少女だ。
「…この子?さっきテンゾウが言ってたのは」
「は、い。多分」
「そう。ねぇ、君。」
カカシ先輩はずいと彼女に歩みよった。
「俺らは木ノ葉の忍だ。この国の忍ではない。だから、この国の民の面倒をみることなんてできないんだ。君はこれから…」
「行く場所ならあります」
真っ直ぐな瞳で、彼女はそう言った。あぁ、さっきから胸騒ぎしかしないんだ。大抵こういう予感は、当たる。
「わたし、テンゾウに飼われたいんです」
アンチ・ミー
一体どこでどう間違えた?
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