その屋敷は進むごとに暗闇が増すばかり。
聞こえるのは自分の足音のみ。
まるで世界の終わりの淵。



「…ここが紅のアジトですか」

「あぁ。気を付けろよ、いつ気づかれるかわからない」

「わかってます」


僕たちは別に紅を倒しにここへ潜入してる訳ではないんだ。
狙いは姫様の奪還であり求めてるものはそれ以上でも以下でもない。
つまり紅と殺りあわなくていいならそれに越したことはないということだ。僕らはなるべく穏便に事を済ませたいのだ。



「テンゾウ、」


先を歩いていたカカシ先輩が足を止める。そして明かりで先を照らした。


「分かれ道…ですか」

「ん。テンゾウは右、俺は左ね。
いつものとおりターゲット見つけたらチャクラを練る」

「了解です。」


潜入はあくまで音もなく…
これは忍としての鉄則であり、僕自身のルールでもある。
だが何度も修羅場を経験してきた僕にとって、敵と遭遇することは予想の範囲内だ。
音もなくというのは臆病に慎重に潜入することと同じではない。
潜入は時には大胆に、敵に見つかることを恐れてはいけない。



「…部屋、か」



窓はない。
覗く隙間もない。
だが人の気配はする。
これは堂々とドアから入るべきだ。中にいる人が紅の人間なら…戦う他はない。



「…………」


ゆっくりと、ドアノブを回す。開けた世界は薄暗い。ベッドの上で蠢くものが見えた。
僕はターゲットを目で捉え、一瞬のうちにベッドへ飛び乗りクナイを相手の首に突きつけた。



「お前は紅の人間か?答えろ」



身体に触れ、初めて気づいた。
…女じゃないか。
しかも全裸の。



相手は寝起きで頭が回らないようだが、すぐに首に当てられたクナイに気付き、抵抗を始めた。
だが男の力に、勝てるわけがない。



「抵抗しないでください。
正直に答えたら殺しはしません。
あなたは霧隠れの姫様ですか?それとも紅の人間ですか?」



姫様の可能性も考え、今度は丁寧な口調で尋ねた。
任務前に顔写真は見たんだけどな…暗闇で顔が見えやしない。
彼女は抵抗をぴたりとやめ、身体を震わせた。
…この恐れよう。きっと紅の人間ではないな。
彼女の息づかいが、静寂の暗闇で唯一耳に届いた。



「わ、たし…姫じゃない
でも紅の人間でもない」


か細い、少女の声だった。
思ったより若いな。10代か?


「…君もさらわれた身なのかい?」

「違…う、買われて…」

「人身売買か」


まだこの国ではそのようなことが行われているのか。
苦笑しか出てこなかった。
寝室で飼われている彼女に、姫様の在処などわかるまい。
とりあえず知っていることだけ聞き取ってこの場を去るか。
そう思い僕はクナイを下ろした。


だが、彼女はその僕の手を掴み、握りしめた。
そして僕は聞いてはいけない言葉を聞いてしまったんだ。





「お願い………助けて」






その今にも消え入りそうな声に。同情する余地はなかったのか。



一瞬に沈没する


厄介な拾い物を、してしまった。

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