「私、思うんだけど」 四人揃っての夕食を済ませての団欒。 その日あった、楽しかったこと、悲しかったこと、悩んだこと、腹が立ったこと。 とにかく、いろんな出来事を気のおもむくままにお話する。 それは誰かが取り決めたわけではなく、義務でもなく、自然に。 でも、だから、毎日そんなのがあるわけじゃなくて。 クラウドが仕事上みんなが起きている間に帰って来られない時だってあるし、子供たちも自由に自分たちの時間を過ごすこともある。 もちろん私にも仕事が。 そんなたまにある家族とのひとときにマリンが口を開いた。 しかもちょっとだけ強気な口調で。 だからさっきまでの穏やかな雰囲が止まる。 みんながピシっとした面持ちでマリンを見る。 この子にこんな口調で言われると、なんだか逆らうなんてこと、できないような気になるのは、きっと私だけじゃないよね、コレ。 「クラウドのお仕事に笑顔が加われば、きっともっとお客さん、増える気がしない?」 その一言で私たちが固まったのは言うまでもなく。 でも言った本人は「きっとそうだよ!」といいコトでも思いついたように、一人、うんうんと納得している。 クラウドに至っては、さっきからピクリとも動かないのに。 「マ、マリン?それは――」 人付き合いを苦手としている彼を知っている。 そして、それでも彼なりに努力しているのを知っているから。 フォローのため口を開いた自分は、つくづく彼には甘いのかもしれない 。 「それは…愛想を良くしろという意味か?」 けれど、我を取り戻したらしい彼が先に言葉をつなぐ。 「ん〜…同じ意味なのかもしれないけどね、でもやっぱり愛想って言うより笑顔、かな〜?」 「そうか…」 ポツリともらし、また押し黙る。 「そう、だよな… クラウドが笑うってあんまり想像できないけど… うん!俺もそう思う!!」 すると、それまでずっと何かを考え込むように俯いていたデンゼルがマリンに同感した意見を漏らす。 「でしょ!?デンゼルの星痕が治った時とかに、教会でクラウドが見せた笑顔があれば絶対!女の人は一発KOだと思うんだよね!!ううん、もしかしたら男の人だって…!」 一発KOって…。 マリンのその表現に私は何とも言えない感情を抱いてしまった。 しかも男の人もって… どういう意味なんだろう…。 チラリと隣のクラウドを見遣ると、彼もとっても、とっても複雑な顔をしている。 自分が笑うとどうして一発KOで客が増えるのか不思議 とか。 自分が親しくもない誰かに毎回笑顔をふりまいての抵抗 とか、そんな感じ。 「ね!?クラウド!!」 尚も詰め寄るマリンにきっと悪気はない。 純粋に彼の仕事のより発展を祈ってる 。 「……努力は、する…」 「うん!」 不器用な彼の精一杯の答えは子供たちに対してはあまり上手いとは言えないものだったけれど。 でもそれが本心なんだとわかる言葉だったから、子供たちは素直にそれを受けとった。 「でも」 「?」 「マリンたちには悪いけど… これ以上忙しくなっても困る、かな」 「え!?なんで!!?」 仕事が増えるのは彼を信用して、頼っている証。 それはとってもいいことのはずなのに、もっとは望まないと呟いた。 それが同じ、商売をしている者としては不思議で、子供たちに交じって目を見開き、彼を見つめる。 その光景にクラウドはわずかな苦笑を浮かべた。 「確かに、仕事をしてお金を稼ぐって重要なことだけど、俺はこの時間も大切で、大切にしていきたいって思うから――」 「「「…………」」」 「まぁ、たかが一つ笑ったところで客が増えるとは思えないが…」 ふと、なんでもない風に告げたその言葉。 それにどれだけの威力があるかなんて、入れてあったコーヒーにすました顔で口をつける彼は全然わかってない。 ソレ、に嬉しいはずの子供たちは「クラウドがそれでいいなら俺たちは別にいいけど、なぁ?」と、照れを隠したり、満面の笑みを浮かべている。 「でもだからって、お客さんにあんまり無愛想にしててもいけないんだからね!」 「あぁ…わかってる」 それでも、冷静に見つめることも忘れないのがマリンらしい。 でも、困るなぁ〜…。 なんでそんなことサラっと言っちゃうかなぁ〜…。 溢れそうになる感情を必死に抑える私の身にもなってほしい。 「さ、二人とも!そろそろお風呂入って寝よ?」 「「は〜い」」 素直に言うことを聞く二人の背を消えるまでみつめてから、もといた席に再び腰をおろした。 さっきまでの賑やかな空気が嘘のように、しんと静まりかえったリビング。 それを意識しながらも、構うことなく彼に言う。 「ホント言うとね?」 「ん?」 「マリンの言ったこと、ちょっとだけ、そうだなぁって思ってたんだ。クラウドは嫌かもしれないけど、笑顔があればもっと仕事が来るようになるかも、そうしたらクラウドも充実した毎日を送れるようになるんじゃないかって…」 「ティファ…」 「うん…でもあぁいう風に言ってくれて、凄く、嬉しかった」 彼がこんなこと言うと思っていなかったから、大袈裟かもしれないけど「ありがとう」と感謝の意を彼に伝えたら、彼のクセの一つである、顔を逸らし、頭の後ろを掻く仕種をしてみせた。 その動きが懐かしく、微笑ましく思えて「あ、照れてる?」と少し意地悪な心も乗せて軽く笑う。 そしたら「少しな」という言葉と共にふわっとした笑顔をくれた。 なんでなんだろう。 他の人みたいに大輪の花が咲くような笑顔じゃなくて、口の隅をわずかに持ち上げた、微笑ととも取れる些細な変化なのに。 彼だと、心が温まるように嬉しくなるのは。 もっともっと、見せてほしいと思うのは。 「よし、俺も子供たちが上がるまでに伝票の整理、してくるかな」 一度、伸びをしてから立ち上がる彼に慌てて声をかける。 あと一本で階段に足が掛かるというところで、声が届いたことにまずは安心する。 どうしよう…言っちゃおうかな…。 言っても…いいのかな…。 「あの…あのね」 胸の中で よし! と意気込んで。 「さっ、さっきはお客さんにえ…笑顔でって言ったけど……しなくていいから!クラウドの笑顔は私…っ私たちだけでいいから!…私たちにしか見せないで」 見開かれたまま動かない青い瞳。 しどろもどろで伝える自分の声、言葉。 それが今更ながら恥ずかしくなって頬が熱い。 見つめられるままが堪えられなくなって顔を逸らす。 「…………」 「 ティファ 」 名を呼ばれ顔を上げれば、チュッという音とともに頬に柔らかい感触。 「それは願い、か?それとも…命令?」 至近距離でのその囁きは、私の耳を甘く震わせる。 「…命令…です」 「ふ…」 彼のするシニカルな笑いは、恥ずかしさを募らせ、そして何故か悔しい気持ちになった。 「了解、ボス」 「ボっ!?何それっ」 「はは…」 彼が笑う。 無邪気に。 それだけでこの場所も、私の心も、温かくなる。 「ティファー 上がったよー!」 マリンの声。 「みーずーー!!」 デンゼルの声。 「カラスの行水だな…」 「だね…」 四人の声が揃えば もっともっとあったかくなる。 それは すべてはあなたが笑うことからはじまるんだよ? クラウド――― END 「「おやすみ〜」」 「あぁ「うん、おやすみ」」 「………」 「じゃぁ、俺もシャワー浴びてくる」 「うん」 「………ティファ」 「ん?」 「一緒に入る?」 「え!//なっ、何言って…!!//」 「あ、照れてる」 「クラウドっ!!///」 「ふ…」 「…………ティファ」 「な、何?」 「命令だ」 「…っ……」 ―――――――――― 攻めるなクラウド… よほど独り占めならぬ四人占め?四人占めならぬ独り占め?が効いたみたいです(笑) てか、カラスの行水なんて言葉はないか…。← それにしても。 仕事に笑顔とか愛想って大事だよ、クラウドww |