「言ったんだ」

「ん?」

「俺の夢、誇り、全部やる」

「………」

「お前が俺の生きた証」

「……?」


運び屋をしている彼が、夜遅くに帰ってきて。
寝る前に一杯だけと、奥のカウンター席でお酒を飲みながら、何の脈略もなく突然にそんなことを言い出すから。
その隣で付き合っている私が首を傾げることしかできなかったのは、しょうがないことだと思うんだ。

うん。

「…何が?」
だから率直に今の気持ちを伝えた。
そしたら彼は私が全て知っていると思ってたのかな。
それすら気づいてなかったみたいで、少し瞬きをしたあと軽く吹き出しながら、ごめんを繰り返した。



ザックス。



前にちょっとだけ話してくれたことがある。

自分を守ってくれたこと。

少し前の自分は彼を演じていたこと。


……?
あれ?そういえば彼からあの人の話ってその時しか聞いたことない、かも。


少ない話の中でも彼の中のあの人の位置は特別なんだとわかって。

無力に泣いた彼なのに。

決して赦されぬ罪だと戒め続けた彼なのに。


あの人のことを話す彼はなんだか落ち着いてて穏やかで。
あったかかった。


だから。

「ねぇ、あんまり…ずるずる……してない?」
「ん?」
「あの人のこと」

傷つける言葉だったかもしれない。
悲しい言葉だったかもしれない。
彼を泣かせるのは怖かったけれど、不思議だと思った彼の表情の真意を知るため、勇気を出して聞いてみる。
「………」
私の不躾な問いに少し目を見開いたあと、また彼は、穏やかに微笑った。

「うん、そうかも…しれない」
「どうして……あの、だって、その…」
「うん」
最後の方はここまで彼の傷に踏み込んでいいのか怖くて、声がしぼんでいってしまったけれど。

何故私がそう聞いてきたのかわかっているみたいで。

「なんて言うのかな、凄く悲しいことだけど、あまり…憶えていないんだ」

そうして言った彼は本当に悲しそうに笑ったんだ。

「そう、なの?」
憶えていないというのが信じられなくて、無遠慮にそう聞き返してしまった自分がなんだか恨めしかった。
でも彼は私のそんな想いに気がついていないみたいで再び、うん、と頷いてくれた。

「魔晄中毒だったから…さ、一時一時しか憶えていないんだ」

「ミッドガルに行かないといけないと生きようとしたあいつ。友だちと言ってくれたひたむきな瞳。届かなかった手」


遠くを見つめるかのような眼差し。

私の知らない

あの人との繋がり。


「もちろん、今の俺やあの時のあいつを思い出すと苦しくなる」


「けど」

遠くを見つめていた彼が、そう一言区切って、あどけなく此方を向いて言った。


「全部もらったから」

「もらった?」

「夢、誇り、いろいろなもの、全部、もらったから」

「……そっか…」
私がそれしか言えなかったのは、悲しいような温かいような、この激情をうまく伝える術がわからなかったからかもしれない。


そしてふいに。自分でも不思議なほどに。
彼も知らない、私のあの人への想いが頭をもたげた。

「私、もう一度、彼に会いたい」
「え?」
ずっとずっと心の奥底に閉まっておいたはずなのに、彼のあの人に対する生を聞いてしまったため、溢れ出してきた。

「そうか…ティファも会ったこと、あるんだったな」
「うん…」

もう7年も前になってしまったあの事件。

私の村を焼いたのは彼じゃない。
私の家族を殺したのは彼じゃない。

と、わかっていたのに止めることができずに言った。

たった一言の憎悪。


『嫌いよ。神羅もソルジャーも“あなたも”みんな嫌いよ』


できることなら、あの言葉をなかったことにしたい。
すごく勝手なことを言ってるってわかってる。

でも

だって

出会ったばかりだったけれど、あの人のしゃべり方からでも伝わる人柄は、他の人よりもずっと…ずっと深い。
優しさ。
労り。
誰でもあの人の何かになりたいと思わせる。
あの人のすべてが不思議で縋りつきたくなる衝動。


「大丈夫だよ」


「え……」

いつの間にか刻が止まったかのように俯き、一点を見つめたまま、ぐるぐる頭の中で考え込んでいた私の時間は、彼のその言葉で再び動き始めたみたい。

「ちゃんとわかってるよ」

「あいつはきっとわかってる」

「そんなの…!」
彼はあの人じゃないのに全てを知っているように。
絶対だと言い切ってしまいそうな彼に。
僅かに苛立ちを覚えて少しだけ声を荒げてしまった。

その拍子にぶつかった蒼穹の瞳にはっと我にかえって口をつぐむ。

「ごめんなさい…」
彼は私を慰めるためにそう言ってくれたかもしれない。
それなのに責める言葉を投げつけてしまった自分は、彼に対する罪悪感でいっぱいになってしまった。
その時の沈黙がより一層、この場を居心地の悪いものとしていたと思う。

でも、優しく頭の上に降りかかってきた大きな手のひらによって、そう長くは続かなかった。


「大丈夫だよ」

それだけ言って、ずっと頭を撫でられることに子ども扱いされてる?と思わなくもなかったけれど。

この温かい手のひらが優しすぎて、もう暫くはこうしていてほしいと願わずにはいられなかった。



そして。

私が見たあの人の最期の顔はたぶん消えることはないけれど。

思い出すあの人との記憶に。

屈託なく笑うあの笑顔が増えればいいなと、近づいてくる同じ輝きをもった瞳をぼんやり見つめながら。



思った。



END

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CCをプレイして、そしてZ全体を見てクラウドのザックスへの…言い方悪いですけど、執着心?が気になって、それを解決しようと書き始めたんですけど、途中からティファ→ザックスになってしまいました(._.)
結局この話に書かれていること全部、私が思ったことなんですが、ACとかも、しょうがないことなんですが、エアリスばかりに後悔がいってしまって、ザックスはどう思ってるんだろうと。で、ザックスにもいいようのない「悲しい」がたくさんあるんだけど、CCのやりとりがあるからこそまだすっきりしてるのかな?っ
て思いました。全部もらったからなんだなと。
そしてティファが語るザックスのイメージは全て私の独断と偏見(笑)
特に恋人でも友でも仲間でも、とにかく彼の何かになりたい、なれてる人が羨ましいなぁと思います。あと、ティファがクラウドに対して慰めるためにそう言ってくれたかもしれないと思ってるのは、わかってなぃんです。クラウドはそんな失礼な想いで大丈夫って言ってないのに、そう思っちゃって…そういう深い想いをこの時のティファはわかることができなかった。でもこの場合はわからなくても大丈夫…それでもいいときもあるかなと思い、そこまで深く突っ込みませんでした。はい。長々すみません。