「しまった…」

夜も次の日付に変わろうとしている時間。
明日の店の準備も終わり、今日の疲れを取るため シャワーを浴びていたティファ。

さっぱりして 体を拭き、服に手を伸ばした時、あることに気がついた。

「下着がない…」

(なっ なんで!?ちゃんと持って来たはずなのに…)
一生懸命シャワーを浴びる前の自分の行動を思い出そうとした。

(あ。そうだ。
自分の服を取りに部屋に行ったときマリンに呼ばれて、下着は取らずに部屋出ちゃったんだ。それで、そのまま下着のこと忘れて……。
も〜〜〜自分のばか〜)
と、ティファは自分の行動を責めた。


……………………。


もう一回使用済みの…なんて、気持ち悪くてできない。












ガチャ


バスルームの扉の隙間からリビングを覗くと、もうすでにシャワーを浴びたクラウドが新聞を読みながらソファに座っていた。

自分の部屋に行くには、クラウドの後ろ手にある階段を上らなければならないのだが、この格好で行くのは恥ずかしい。というか無理。



……ここで考えても仕方ない、か…。早くしないと湯冷めしそうだし…。
ティファが諦めて扉を閉めようとした時、クラウドが新聞をたたみ立ち上がった。
そしてそのままトイレに向かう。


(ちゃ、 チャンス!!)


ティファは体にタオルを巻き、ここぞとばかりにバスルームを出て階段へ向かった。

そして、段に足をかけようとした。

そのとき。
なんと、こともあろうに、そこにはバナナの皮が……(笑)

(なっなんで!)


マンガの一コマのように滑るティファ。


ゴッ


鈍い音と共に不自然な格好で階段に座り、ありえないシチュエーションに呆然とするしかない。

「…………」
隣にゴミ箱があるから、きっとデンゼルか誰かが食べて捨て損ねたのだろう。

(って!早くしないとクラウドが来ちゃう!!)

しばらく呆けていた自分に気づき、慌てて立ち上がろうとする。
「いっ!…た…」

ガチャ


その音と共に、トイレを済ましたのかクラウドがリビングのドアを開けて入ってきた。


「……………」
「……………」

黙ってお互いを見合う二人。


しばしの沈黙。



どうしよう。

恥ずかしい。


恥ずかしすぎる。



この場から走り去りたい衝動に駆られる。
羞恥のあまり、顔を真っ赤にしているティファに気づいたクラウドは、彼なりの気遣いなのだろう、目を反らし尋ねる。


「……何、やってんだ?」

「あ…えっと……これは…その」


なかなか事情を言わないティファに今度はクラウドが戸惑う。

俺はいない方がいいのか?

だが尋ねた手前、そしてこの状況でどこかに行くのは、なんだか…少し憚られる。
だからクラウドは、ティファが言ってくれるのを待つしかない。



「あの…ね」
しばらくして、小さな声で口を開いてくれた。
その心細い声に耳をすませる。

「えっと…あの…下着……をね…忘れて……」

「ぇ」

「そしたら…ちょっと、転んじゃって……」

そこまで言ってティファはさらに顔を赤くさせ、俯いた。
クラウドもその内容に、薄く頬を染める。

「……そうか……」
しばらく俯き、黙った二人だったが、クラウドが怪訝そうに気づいたように口を開く。

「行かないのか?」
それを聞いたティファは目を泳がせながら呟いた。
「それが……なんか、足くじいちゃったみたい、で……」
その言葉に、クラウドの顔は真剣になる。

「痛い、のか?」
「あ〜…うん、ちょっと…。でもホント、ちょっと捻っただけみたいだから、少し待てば痛み、引くと思う」
格闘家として、バナナで滑り、くじいたことに情けなさを感じるのだろう。
困ったように笑う。

そんなティファを見て、クラウドは近づいた。
それに気づいたティファは自分の格好が格好だけに、物凄く慌てる。

「え?…え!?何!!?クラウドっ!」


ティファの言葉を無視して、クラウドは上に着ていたTシャツを脱ぎ、投げるように渡した。

「着てろ」

「え?でもクラウド...」

「取りに行くだけ、なんだろ?」


「………」

しばらく考えた末、ティファはその行為に甘えることにした。
クラウドはティファが服を着たのを確認すると、横抱きにし、階段を上がり始める。

「わっ!ちょっちょっとクラウドっ!何!?…下ろしてっ」
「だって歩けないんだろ?」
「だから、しばらくすれば大丈夫ってっ!」
「しばらくって?」
「しばらくよ!」
「風邪、引くぞ?」
「それは……〜〜…とにかく!下ろして!!」
「いいから大人しくしてろ。子供たちが起きる」
「っ!」

クラウドの言葉にはっとし、大人しくなる。


たんだか今日、強引?

一瞬そう思ったが今はクラウドに身を任せるしかない。

「…ごめんなさい……」
「ん?」
「ありがとう」
「どういたしまして」

落ち着いて、彼の胸に頬を寄せれば、聞こえてくる心臓の音。

それは規正正しく脈うっていて、さらに落ち着かせる。

そして今さらながら思う。


彼が


帰ってきた。


その思いに一人、うっすらと涙を浮かべる。


「ティファ?」
声をかけられ、一気に現実に呼び戻される。

「あっごめんなさい」
「ここでいいか?」

気がつけば部屋の中で。
ティファはゆっくりとベッドの上に下ろされた。


「じゃ、そこ、いるから。終わったら呼んでくれ」
「う、うん」


パタン


クラウドが部屋を出ていったと同時にティファはベッドに伏せる。

「恥ずかしかった……」

最初はその恥ずかしさに悶えるティファだったが、だんだんと嬉しさが込み上げてきて、頬を緩める。


「優しく…なったね…」
(ううん、優しかった、よね)

それでも、帰ってきたばかりはまだぎこちなくて、距離を感じていたから、少しずつ近づけているようで嬉しい。

思わず、自分には大きめの服を握りしめる。


彼のぬくもり。


彼のにおい。


それを愛しく感じながら、ティファはゆっくり瞳をとじた。


************

「………ちょっと、待ってくれ」

目の前の現状にため息がもれるクラウド。
そこには自分の服を握りながら、気持ち良さそうに眠っているティファの姿があった。

(遅いと思ったら…。本当に風邪、引くぞ)
(服、着せる…わけにはいかないし…。起こす…って体に触れるわけであって…なんとなく、ダメな気が……。かといって、このままは……)

マリンがいてくれればなんとかできるかもしれないが、今はもう夢の中だ。
他にはと自分の頭をフル回転させてみるが、いい案は浮かばない。
諦めて、布団だけでもかけようと遠慮がちに近づく。

「クラウド…」

布団に手をかけた時、下から声がした。
びっくりして、ばっとティファの方を振り向くと、なおも気持ち良さそうに寝ている姿が目に入る。

「寝言、か…」

ホッとしたのと同時に、自分の頬の温度が少し上がるのを感じる。
夢の中でも自分がいるのか、と。

目の前にはすらりとした白い足を出し、自分の服を握ぎって無防備に寝ている彼女の姿。

「一応…『好きな女の子』なんだけど、な」

苦笑しながら、優しく頬にかかる髪をはらってあげる。
そしてそのまま耳元に口を寄せると小さく囁いた。


「襲うぞ」


その言葉は静寂の中に溶けこみ、やがて消える。
クラウドは顔を上げると、またぎこちなく部屋をあとにした。



END
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まだ書き始めのころの作品。書き方とかいろいろ痛いなぁ…ww