「あれ?サトシ何それ、どうしたの?」
新しい町に着いたサトシ、カスミ、タケシの三人は、まずはそれぞれが好きなところにと自由行動をとっていた。サトシはぶらりとバトル相手がいないか町の散策。カスミは水ポケモンの為の道具や自分の小物、服など何か真新しいものはないか。タケシは次の旅への食料や最低限必要な道具の買い足し。
集合場所として決めたポケモンセンターに全員が集まった時は、陽は空の真上。お昼近くになっていた。
そこでカスミが目にしたのは、ポケモンセンターのイスに座って、ピカチュウと仲良く半分こでパンを食べているサトシの姿。
珍しい、買いでもしたのだろうかと、首を傾げて問うと、なんてことはない『丁度通りかかった忙しそうなパン屋さんのすったもんだの仕事ぶりを見かねて少し手伝いをしたら、お礼にもらった』と言った。
「えーいいなぁ」
「すんげーうまいぜ!焼きたて!」
と、満面の笑みで言い、美味しそうに頬張るサトシを見て、カスミはそのパンが食べたくなった。
買いに行けばいい話。
だが、焼きたてはタイミングが良くなければ、なかなか手に入れることができない。
カスミは、あたしもサトシについて行けばよかったと、サトシの持つパンを見つめながら、何度もいいなと呟いた。
「なんだよ。そんなに食べたいのか?しょうがないなぁ」
呆れながら言ったかと思うと、サトシはずいっと、口元にパンを差し出してきた。

カスミの目の前に現れたのは食べかけの、パン。
一口サイズには千切られていない、パン。
それはしっかりとサトシの手に収まって、その存在の大きさを主張している。

見つめてくる瞳は。
しょうがない、さぁどうぞ。

これは所謂、カップル等の間で行われる、あーん、というものではないだろうか。

暫く停止していた思考が徐々に動き始めて、カスミは頬を赤らめた。
「い、いらないわよ!あんたの分、なくなるし」
「少しくらい、いいって」
状況がわかっていないのか、サトシは、ほれ、と手を揺らした。
「いいいらないってば!」
横でタケシが見ているのがわかっているから、余計に恥ずかしさが募って、首を左右に大きく振る。
「なんでだよ、さっき何回も欲しいって言ってたじゃんか」
「誰も欲しいなんか…」
「いーや言ったね!遠慮すんなって!」
更に伸びる手。
カスミは堪えられないと言わんばかりに、目をぎゅっと瞑った。

「いらないって言ってるでしょ!あんたの食べかけなんか死んでもいらないわよ!」
「なんだと!?」

あぁ。何故こんなことに。

いつの間にか、意地でも食べさせようとするサトシと。
意地でも食べるもんかと逃げるカスミの、攻防戦が始まる。

その横で。

「あいつら、何やってんだ?」
「ピぃカ?」

と、タケシとピカチュウ。仲良くパンを分け食べて。

タケシはありがとうと、ピカチュウの頭を撫でていた。



END
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あぁ何故こんなことに(笑)いー夫婦作品なのに、いー夫婦どこ行ったww

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