「へっくしょい!」
「なんだ?風邪か?」
「あんたリーグ近いんだから気をつけないと」
「分かってるって。…っくしゅ!」
「もう、しょうがないわね。ほら」

知識不足と言うよりも、習慣的な考えの違いなのだろう。故郷はそれほど気温が低くならないからと、防寒具をあまり持ち合わせていないことに、今更ながら後悔した。とりあえずコート類の防寒着はある。だが、服の隙間から入ってくる風のせいで身震いが起きて、くしゃみが出た。
そして、ふわりとかけられたのは、先ほどまで彼女の首に巻かれていた水色のマフラー。
突然の行為に、思わず体がビクリと揺れる。
「い、いいよ。それじゃカスミが寒いだろ!」
「あたしはフードとかあるし。…言っとくけど、次のポケモンセンターまでだからね」
「だからいいって!」
「いいからしてなさい!」

いつからか自覚したカスミへの想い。そんな自分の気持ちには気づかず、お子ちゃま扱いするカスミ。腹立たしいが、それもこの状況と彼女の性格を考えれば仕方のないことなのかもしれない。


情けない。


想いを自覚したからこそ、彼女からの好意が、逆に自分を追い詰める。


本当は俺がしたかったことなのに。
なんでくしゃみするかな俺。


彼女の中の自分の立ち位置と、その中から抜け出せない、まだまだ頼りない己にうなだれて。
巻かれたマフラーに顔を埋めると香る、いつもなら甘い彼女の匂いも。


今は苦しいだけだった。


END

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がんばれ少年

100924