「よ、久しぶり」 「あら、いらっしゃい。上がって」 旅から旅への合間だったり、区切りだったり。 付き合い始めて、マサラに帰るよりも前にハナダまで会いに来てくれるようになって。 いつものことだからと、既に当たり前になっている行動に何の違和感も感じず、家の中へと促した。 良かった。後になって本当にそう思う。 室内方面へ視線を移す瞬間。 視界の隅に、一歩踏み出したサトシの歪んだ顔が映った。 最早、無意識の行動というか。脳より体の反応の早さというか。 見えた刹那には、ばっと音が聞こえてきそうな勢いで振り返り、着ている黒いTシャツを思い切り上へずらした。 「うわっ!何するんだよ、ぇっちー!」 「うるさい!」 嫌がり、ふざけで誤魔化そうが今は構ってられない。 通常なら敵うはずのない力と言葉で相手を拘束すれば、見えてきたのは、脇腹から腹部中心にかけての中度の傷。 「………」 「………」 「……。転んだだけだよ」 「んなわけないでしょ」 有無を言わせないよう、無言でサトシの手を引っ張り、簡易な治療道具を出す。 手当ての間続く沈黙は、カスミのサトシへの考えを浮かばせた。 なんで? なんでこんな傷をしてるわけ? というか、なんでこんな傷で笑ってるの? なんで隠すの?そんな必要ないじゃない。 それともあたしには言いたくないっての? あたしってあんたの……。 ぐるぐると思考の海に浸かれば、相手への苛立ちは自分への嫌悪に変わってくる。 どうして早く気づけなかった? 何かとトラブルに巻き込まれるこいつなのに、何事もなく帰ってくるわけないじゃない。なのにどうして……。なんで気づかないの! 早くに見抜けなかった不甲斐無さに。 顔が。 サトシの顔が見れない。 「………泣くなって」 「うるさい……」 サトシの言葉と自分への情けなさに、さらに視界はぼやける。 その涙を見られるのが、悔しいと思う。 そもそもなんで自分が泣かないといけないのか。 こんなの困らせるだけだ。面倒臭いだけだ。 ぐいっ 「あんま泣くとゲンガーみたいになるぞ」 「うるさい……」 「はは、お前今日そればっか」 一言ある前に、痛いくらいに目元を拭ってくる大きな手と、意地悪気な笑顔に、痛いくらい温かみがあって。 鈍感なサトシにはきっと自分の考えてることなんてわかってないだろうに、それでも不思議と、渦巻く黒硫を救いとってくれる力がある。 「お願いだから隠さないでよ」 「だって、お前が心配すると思って」 「心配するわよ。でも隠されるのはもっとダメ」 「ん、わかった。気をつける」 そのまま頬を触れられれば、自然と瞼は落ちていき。 お日様の匂いと長い間触れなかった温もりに、またひとつ涙が零れた。 END ―――――――――― 許可が無くても、着ているものを捲れる権利とゆーか権限とゆーか…変態扱いされない、怒られない関係っていいょな。と思って。 |