「カスミ、どうした、具合でも悪いのか?」 2、3歩前を歩く自分の耳に入ってきたのは、2人のそんな会話。 振り返ると心配顔のタケシと、いたって変わらない、いつものカスミがいる。 「え…そんなことないわよ」 首を傾げ、否定したにも関わらず、タケシはカスミの額に手を添えて唸った。 「うん、やっぱり少し熱っぽいな。どこか休める…」 「大袈裟よ。これくらい平気」 「ダメだ」 「大丈夫だってば!」 だんだんと言い争うように言葉を交わす2人を黙って見つめたまま。 心にあるのは奇妙な疎外と得体の知れない焦燥。行き交う言葉の応酬に、入るタイミングが掴めない、自分は忘れられたかのようなやり取りと。 体調の悪いらしいカスミに、それくらい平気だろと無理を強いる焦りと、自分だって隣に居ればそれくらい分かっていたという、タケシへの意味の解らない反抗。 深い深い底で、ぐるぐると渦巻く黒い物体に。 まるで自分は他人だとでも言うように街の景観へ視線を移した。 何かを想う、わけでもなく。 END ―――――――――― まだ未発達で無自覚の感情を持て余す。 |