「いつまで居る気なんだい?そろそろ帰ってくれないか」
「もうちょっと」

いつからか居座るようになったオレンジの髪。
ソファーの上で雑誌を読みながら、ぼりぼりぼりぼり。茶菓子を食す。
いい加減にしてほしい。
これじゃ研究に集中することができないじゃないか。
ただでさえ、次の発表会の論文が、遅れ気味だというのに。

「いくら待っても今日もあいつは帰ってこないよ」
「…なんのこと?」
「僕にはあいつのどこがいいのか、さっぱりわからない」
「だから何がよ」
相変わらず意地っぱりと言うか、素直じゃないと言うか。

それほど時を過ごしたわけではないけれど。
たった数時間の積み重ねの内に、観察眼を要する研究者には、それなりに解ることがある。
だてにいろんな携帯生物を見てきているわけではない。
それは、どの研究者にも言えることなのか、それとも自分の才なのかは置いといて。
そもそも人と人以外の生き物を比較していいのかも、未熟な自分にはまだよくわからない。



「なんなら僕にすればいいのに」

「……有難う。嬉しい」
「ふ。残念」

やれやれと自分で入れたコーヒーを啜る。
彼女は、こちらの考えを見透かしていたようだ。
余計なお世話、というのを僕はしてしまったらしい。

怒っているだろうに、それでも腰をあげようとしない彼女に負けて、付けっぱなしのパソコン画面に向き合う。

普通になりつつある日常に、早く帰って来てくれと、憎たらしくも憎めない永遠のライバルである幼なじみに、カタカタとキーボードを打つ手は速くなる。



枯れ葉の落ちる秋も終りを迎えようとしていた。



END

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もし。
もし、シゲルに対して何か疑問や違和感を感じたら、それは鶏には答えることができません。シゲルの考えや想いは鶏にもよくわかりません。
何も感じなかったら、それはそれでいいと思います(^-^)

100325