「え?サトシがそんなこと言ったの?」 「あぁ。びっくりしたよ。まさかあんな風に言うなんて。成長したってことかな」 穏やかに優しい表情で語るタケシが一瞬にして視界から消え、同時に強い衝撃を受けた。頭を何かで殴られたような感覚。 「そ、それでサトシは!?サトシは大丈夫なの!?」 実は、よっぽどのことがないかぎり電話を寄越さないサトシに代わり、定期的に連絡を入れてくれるタケシのおかげで情報はそれなりに得ている。 先日サトシは、手持ちのグライオンと別れたらしい。 それは長い旅をしていれば幾度となく訪れるものであり、盧として珍しいものではない。 では何故、自分がこんなにも困惑しているのか。 それは。 「俺達と一緒に来るのか、それともここで修行するのか………お前が決めればいい」 「お前が決めたんならそうすればいい」 そう言ったらしい。あいつは。 「………え?」 「え?」 「何が大丈夫なんだ、カスミ。あぁ、別れて落ち込んでるんじゃないかってことか。いや、結構納得してのことだったから大丈夫そうだが?」 タケシは、気づいて…ない? それともあたしの思い過ごし? サトシはポケモンが大好きで。特に自分の手持ちにはありったけの愛情を注ぐ。 それは別れの時の辛さに比例し、何度も涙していた。 それでもポケモンが大好きなサトシは彼らの気持ちを尊重する。別れが嫌でも、それが彼らのためならと解放する。 今回も一緒。 でも一緒じゃない。 だってあいつ、泣いてない。 いや、違う。達観している、と言うのだろうか。 自分の考えすぎならそれでいい。成長という人間の形成であるならそれでいい。 でもその言葉の裏に 『ポケモンは人間なんかに捕われるような、縛られていいような存在ではない』 そんな意味が含まれている気がしてならない。 それはサトシ自身もその中にはいっていて。 タケシに電話代わってもらおうか考える。 いや、止めておこう。 代わったところで、日常を共に過ごさなければ分からないような、そんな些細な変化が、わずかな時間で、且つ、モニター越しなんかで解るわけがない。 「そっか。なら…いいわ」 「じゃ俺達、もうすぐ出発するからまたな」 「うん、気をつけてね」 「カスミもジム頑張れよ」 「ありがとう」 通信を切り、暫く黒く染まった画面を見つめる。 今あいつの傍にいない自分を恨めしく思う。 どうかあいつを守ってほしいと、今旅する二人に願う。 後にあたしは、この時、祈るばかりで何もしなかったことに。 これから起こる彼の拒絶に。 ただただ後悔することになる。 END ―――――――――― 妄想と公式がリンクして嬉しくてつい書いたもの。別れ道にある意味続きます。 |