朝。
居住区の一角で洗濯物を干して、少しだけ休憩しようと何気なく自室のベッドの縁に腰を掛けた瞬間。
頭に突然、いつかの彼の姿が浮かんだ。

お店のカウンターで、一人にしてくれと訴えてきた姿。



ふと、よく昔を想うことがある。
だいたいそれは後味の悪いようなことばかり。これを後悔、というのだろうか。
あの時どうすれば良かったのかな。あの時あぁしていればこんなことにならなかったのかな。

それは今さら。
そう今さら。
だが、悔やんでしまうのだ。
自分が「ダメ」なばかりに、と…。


あの時なぜ彼は一人で飲みたいと思ったのかな。
考えようともせず、感情に任せて言ってしまった一言。

『だったら部屋で飲んでよ』

今思い返しても、己を叱責したい念に駆られる。

でも彼は帰ってきた。
再びこの家に。
この、家族に。

だから、大丈夫だよね?

これからはお互い分かり合っていけるよね?

「………ふ…」
自嘲が漏れた。
わかっている。本当はそう思いたいだけだということを。
大丈夫。だなんて。


もう彼の中に何かしらの一線が引かれているかもしれない。
だって私は彼にたくさんの酷い言葉をかけた。
それは彼自身が気にしていなくても、その事実は消えることはない。無意識の中でそれが生まれることもあるだろう。
それに、いくら強い絆があっても、誰にでも踏み込まれたくないものってあるじゃない。
でもそうやって私は私に言い訳をして、ただ逃げてるんじゃないか。
こんなことを思って、逃げて、また彼との間に溝ができてしまったらどうしよう。

離れたくない。
離れたくないけどでも、クラウドはこのまま、こんな私と一緒にいて良いの?

怖い。

どうしたらいいのか、何が正しいのかわからない。
私のとるべき行動は?



「どうした?」
「え?」
思考の海を漂っていた私を、彼の声が現実へと一気に引き戻した。

配達が休みの今日は、ラフな格好で、のんびりと朝食を食べていた。
伝票の整理でもしようと上がってきたのだろうか。
私の部屋へとクラウドは体の向きをかえた。

そのまま隣へ座る。

「ぼーっとしていた」
私の悪い癖。ネガティブな思考はどんどんどんどん深みに嵌り、ぐるぐる一人で考え込んでしまう。

「何か…悩んでいることとか…不安なことでもあるのか?」
遠慮がちにクラウドが聞いてくる。
そうしてまた私は、話して良いものなのか、話さない方が良いのか、途方もなく迷ってしまう。

そうして黙り込む悪循環。

悲しみに揺れる目の前の青い瞳が痛い。

と。
「えっな、何?」
突然クラウドがお互いの顔の距離を詰めた。
驚いて、弾かれたように彼との距離をとった私に、クラウドはそれでも至近距離のまま口を開く。

「何って、キス、しようかと」
「えっ、な、なんで!?」
初めてではないにしろ、まだ慣れない自分にとっては照れが格段に勝る行為である。
それに、今のタイミングでキスとはどういうことなのか。
怪訝に思いながらも顔はみるみる熱くなった。

「なんでって…しないといけないと思ったから?」

その言葉に急激に熱は冷めていった。

……何それ。私とのキスは。

「義務感からなのね」
気持ちの高ぶりが一気に引き、拗ねた口調が出た。
「そうじゃなくて、落ち着かせたかったというか…」
「私は冷静だよ?」
「そうは見えなかったが?」
…確かに。興奮という意味からでは冷静なのかもしれなかったが、考え込んでいたという点ではそういうことになるのか。
見透かされてたことの気まずさから押し黙る。

「いいんだ」
「え?」
「言いたくないのであれば、それでもいい。でも、何でもいいんだ。話してくれると嬉しい。ティファの思ってること。俺への事でもいい。デンゼルやマリンのことでも店のことでもなんでもいい。大丈夫、俺は逃げない」
泣きたくなった。
自分は結局いろんなことを理由にして逃げて、動けないでいる。迷っているふりをしながら、自分が傷つくことを恐れている。
なのに、彼は歩み寄ろうとしてくれた。
その積み重ねが足りなかったことを、私は思い知ったばかりだというのに。

とうとう涙が一筋、頬を伝った。

「ふ、不安。本当にクラウドはこれで良かったのか。それを聞くこと自体していいのかもわからない。あなたに係るすべてのことが。正しい道が…わからないの。…………クラウドが離れていくことが私は怖い」
なんてみっともない感情だろうか。
最後まで私は自分のことばかりだ。

けれど私の溢れる涙を、武骨な手はそっと拭い去ってくれた。

「ティファ。俺だって正解がどれかわからない。けどそれは、ティファだってわかっているだろう?どちらが正しい道かじゃない」
「どうして…」
「だって正しい道が『良い』とは限らないだろう?それにそれは自分の中での判断に過ぎない。自分は良いと思っていてもティファはそうじゃないかもしれない。それに傷ついて傷つけて知っていくこともあるだろう?」
「クラウド…」
「分かり合えないこともあるかもしれない。でもそれを受け入れていきながら、人は人と歩いていくんじゃないか?少しずつでいい、俺たちは話していこう。…いや、俺はそうしていきたいと思ってる」
彼がこんな風に思っているなんて知らなかった。
見つめてくる青い不思議な輝きが力強い。
私の弱さを受け止めてくれたことが嬉しい。

その感情は情けないことなのだろうけど。

「………うん。…うん。ごめんなさい」
「謝ることはないさ。ティファの不安、少しでも聞けて良かったよ」
そう言って彼が優しく微笑んだ。
私はまたその笑顔に惹かれていく。

「じゃぁ、今度こそ。ティファ…」

そっと私の頬に触れたクラウドの手は暖かく。


優しく重なった唇の温もりに。

私は最後の涙を流す。




END


――――――――――
一言で言うと、もうそのままなんですがティファはクラウドに嫌われるのが怖いんです。2人の仲はまだあやふやで、だから自信がない。クラウドに発言できない。でもクラウドはあんま考えてない(笑)というより、言っても男ですからね。ティファより女々しく?は考えてない。そのことがティファに勇気と自信を与えてくれて、きっとこれからは今までよりは言いたいことが言えるのではないかなと思います。それも「話した」から、ですよね(^-^)そうやってお互いを分かり合っていけばいいんですよ(´▽`)
と言いますか…展開に些か無理な感じが…←

130512