拒絶する手を無視して、無理やり握り締めた俺の手を。

カスミは「あたたかい」と言って涙した。

その涙に俺は。

一生カスミを。
この子を守っていきたいって思ったんだ。



目の前に差し出されたのは手。
他の誰でもない、サトシの、こちらに来いと、その身を預けろと訴えてきた手。

思わず、その手を取ろうとした直前。
ダメだと直感的に感じて、背を向けた。

今この手を取ってはダメだ。取りたくない。
なぜなら、今まで自分は一人で歩いてきたのだから。
一人でも歩いていけるように生きてきたのだから。
もし、この手を取ってしまったら、自分は弱くなる。相手に甘えて全てを任せてしまう。予感がする。
今まで得てきたものを自ら壊してしまうのか。
怖かった。

動かないことに痺れを切らしたサトシが動く。

「触らないで!」

ハッキリとした、確固たる拒絶。
それでも再び伸びてきた腕に、距離を置き、自分の体を抱いた。

「やめてよ、気持ち悪い!」
「あっちいきなさい!」
「消えて!」
「二度と姿を見せないで!」
「あんたなんかいらない!」

暴言を吐き続けた。
酷いとわかっていながら。

それなのに。
少しだけ悲しく顔が歪んだかと思うと、サトシは瞳に強い光を宿し、自分の腕を捕った。

悪寒が走る。
「やっ!サトっ…」
抵抗しようと振り払ってみても、悲しいことに、大きく成長したサトシにそれはかなわなかった。

それでも。
思うようにいかなくなってしまったサトシに対しての悔しさと自分への惨めさから、涙が出るのをぐっと堪え、抵抗を続ける。

「ホントに…もっ…!」
それまで暴れる自分をただ見ていただけのサトシが、強い力で腕を引っ張った。


両手で包み込まれた、あたしの、手。
「何がそんなに怖いんだ?」
悲しそうに揺れる瞳。
「………怖いって…何が?あたしは!」
核心を突かれたことに動揺して、隠すために反発しようとした時、握られた手に痛いくらい力が込められた。

その痛みに、その時の自分は衝撃を受ける。

なぜかその時になって初めて自分は「手を握られている」と実感した。

「サトシの手…」
「ん?」
「あったかい」
「…カスミ……」
ぽたりと涙がひとつ、サトシの手に落ちた。

「サトシの手、あったかい」

気づいた時、何かが崩れた気がした。

本当はもう疲れてたの。
いつまで頑張ればいい?
いつまで強くなければならない?

誰かをずっと求めてた。
誰かあたしに気づいて。
誰かあたしを助けて。
ひとりは辛いの。
ひとりは淋しいの。

でも周りを見ても誰もいなくて。
でもそれは自業自得だと思った。
誰かを困らせるのは嫌いだから、大丈夫だと言い続けた。
それなのに気づいてと求めるのはイケナイんじゃないか。

ジレンマ。

「そろそろ…俺を求めてもいいんじゃない?」

その言葉に、もう我慢ができず、堰を切ったように、涙が溢れ出てきた。
声を上げてなく自分を、サトシは。

ずっとずっと。

手を握り締めたまま、見つめ続けていた。


お父さん、お母さん、お姉ちゃん、ナナコ、ツバキ、サクラ…。

あたし、もうこの手を取ってもいいかな――?




END

――――――――――
人の手って無だった。
でも触れられて初めて人の手って温かいことに知った。いや…気づいた。

いっち君主演の某逃亡ドラマを見ていて考えたネタ。その回は、サクラも人の手が温かいことに気づいたんじゃないかなと、かなり感情移入してましたw
自分も、(あ、こんなに人の手って暖かいんだ)と思ってたり。


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