「え?サトシ?」
雑踏に、昔に見慣れた影が視界を掠めた。
あのくせっ毛に帽子。あの出で立ちはまさしくあいつだ。
今は遠い地で、新しい仲間と旅をしているはずの彼がこんな所にいるはずがない。
驚きすぎて、理解は出来ず。でも惹かれるようにその姿を追った。持っていた買い物袋から、オレンジがひとつ落ちたことに気づかずに、その肩を掴む。

「サトシ…サトシ!あんたなんでこんなとこ…」
振り返った彼は不思議そうに首を傾げた。
まるで知らない人を映すようなサトシの瞳に、困惑する。
人違い?
馬鹿な。目の前にいる相手は正真正銘、どこをどう見てもサトシだ。実は双子でしたーなんてオチだったら、笑えるけど。

「ん?何これ」

頭の中でぐるぐる考えて、ふとサトシのお尻に何やらフサフサとした物体がくっついているのに気が付いた。
反射的に思わず握る。

「にょわっ!」
「!?!?」

変な声がサトシから発せられたかと思うと、それはくるくるくるっと回転した後、ストッと軽やかに地に降り立った。
視線は遥かに下がる。

「あなた……」
「ニシシシシ」

赤と黒紫の毛色。
蒼い瞳。
見たことのない……これは、ポケモン?

呆けて反応には遅れてしまったが……そうか。
しゃがみ込み、その頭を撫でる。

微笑みを向けると、見知らぬポケモンはまた人混みへと紛れていった。

「…そっか」
立ち上がって眩しい空を仰ぐ。

「あいつ、相変わらず無茶してるみたいね」
元気に今も動き回る姿を思い浮かべて、再びハナダジムへの道を歩き出す。


自然と上がる口角と心の高揚が、地を蹴り上げる力を強くした。




END

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映画ゾロア初観賞記念

111103