「最初はグー、ジャンケンポン!」

「英知くんが鬼〜」

「英知くんが鬼〜」

「あはは…負けちゃった」


いつもこうやって新しい家族のみんなと、缶けりしたり、おままごとしたり、鬼ごっこしたりして遊んでた。

今日はかくれんぼの日。

英知くんが鬼。


「じゃ、100数えるよ〜」

「ゆっくりだよ〜」

「キャー!」

「かくれろ〜」

ばらばらの方向に、それぞれが思い思いのところに散らばっていく。


範囲はこの家の中やお庭。

ただひたすら隠れて、鬼は隠れたみんなを見つけ出すだけ。


簡単。


どこにかくれようか迷って、ふと見つけた家の裏の大きな木の下。

きれいに並んだ垣根の間のくぼみ。

「!」
ここなら見つからない。






大地を包む太陽は、暖かさ溢れる笑顔を照らしだし。

突き抜ける空の青さは希望を示し。

優しさ触れる風は頬をなでる。

「…………」

だけど今は、それをすっぽりと隠す黒いマントに覆われている。


かくれんぼってね。

誰にも見つからなかったら勝ちなんだよ。

だから今日はきっと私の勝ち。


外気だけのせいじゃない寒さを紛らわせるように膝を折り、それを抱えると、いつの間にか辺りを照らす満月と目があう。



満月の日はいつもより光を生み、闇を和らげてくれるから怖くないって誰かが言ってた。


そんなの、嘘。



嫌い。


満月は嫌い。


知ってる?
満月の光は罪をしらしめ、己の中心に刃を突きつける凶器。

そして独りだと、孤独だと教えてくれる、神様の優しさ。


いつの間にか1つになった影。

それを満月が鮮明に突きつけてきたあの日。

「…………」

嫌い。

「…………」

満月は嫌い。

「…………」

それと同じ自分の名前。

「…………」

どうして私にそんな名前をつけたの。

私になにをみたの。



お父さん。


お母さん。



「 満月 」



頭の上から声がした。

どこまでも白くて。

どこまでも心地よい声。


「見つけた」

「……英知くん」


月を背負って微笑うあなたが心に痛くて、夜の闇に見つからないよう、声を潜めて泣いた。


そんな私を抱きしめて、頭をなでてくれる英知くんの体が、少し汗ばんでいたのが、服ごしに伝わってくる熱でわかった。


「戻ろう…みんな、探してる」

立ち上がり、差しのべてくれる手。
細くて、白い手。
でも、あったかくて大きい手。

あなたなら、この凍てつく光を包み込んでくれるの?


「どうして…どうしてわかったの、英知くん。…ここだって」

浮かんだ疑問が頭で理解されるより先に、口がひらいた。

そのことに自分でも驚いていると、暗がりでもわかるあなたの儚い顔がずっと向けられていることに気がついて、恥ずかしさのあまり俯いてしまった。


「 満月 」

呼ばれて顔を上げれば、天を自由に仰げる広い庭の真ん中で、英知くんがおいでおいでと手招きをしている。


不思議に思って傍までいくと、とっても優しくて、柔らかい声色で囁いてくれた。


「月が……教えてくれたんだ」

いつもより低いその位置で、青く鈍く輝く、夜の瞬き。


伸びた影はあなたをとらえ、その存在を消そうとしない。



1つの闇が2つになった。



それがこんなにも苦しくて、痛くて、儚く弱い光を灯す。



満月は嫌い。


私を独りだと。
虚しいくらい突きつけてくるから。


どこに隠れても


どこに逃げても


どこまでも


どこまでも


追いかけてくるから。


でもそれが


あなただったなんて。


私の闇を照らし、独りだと言うあなた。


そのあなたも自分を隠すこともできず、ただ自分から、自分も独りだと叫び続けてる。

その姿があまりにも綺麗で、汚れをしらなかったから、誰も気づくことができなかった。


黒く冷たい空の中。

私とあなた、二人だけ。

繋がれた手と手が、私たちの真実。


それが私の


すべてでした。










なのに。


「言えないよ…。英知くんがし……。死んじゃったなんて……悲しくて言えないよ!」


それなのに。


「好きだ」


なんでそれを私に言うの。


聞きたくない。

聞きたくなかった。

聞いてしまったら私は

「ごめん…。私は、英知くんが…英知くんが好きだよ」


あぁ


壊れていく。


音を発てて1つ。

1つずつ、確実に。


私の隣にいたあなたが、一歩、また一歩と。


離れていく。



どうして……。



「どうして!私と英知くんの邪魔するの!!!」



誰もこの想いをわかる人なんていない。

永遠に消えることなんてないのに。


どうして解ろうとするの。

それが傷でもあるかのように癒し、色のない写真だからと輝かせようとするの。




世界には。


私と英知くん二人だけ。


もし踏み込んでくるというのなら。



私があなたを。




殺します。





END

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よく知らないのに友人に送った話。好きな方には申し訳ないです。